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「---今ね。校長室にお客だったの」「へえ」「私、ちょうど職員室に行ったら、捕まっちゃって、お茶出してくれ、って頼まれたんだ」と、同じ演劇部の友だちは、座り込んで、本格的に話し込む姿勢。仕方なくこっちも本格的に聞くことにする。「で、お茶持ってったら、話が耳に入って来たの。客ってねえ、映画のプロデューサーだったのよ」「映画のプロデューサー?」「そう!ロケ!ロケ、やるんだって、ここで」「へえ」と、私はまだ大して驚かない。「何やるの?『消えて行く日本の伝統的木造校舎』?」「この学校じゃなくて---ここも出るらしいけど、町にロケ隊が来るのよ」「ロケったって、ピンからキリよ」「本格的!今、事務の電話で、叔母さんに訊いちゃった」友だちの叔母は、この町、唯一の旅館を経営しているのだ。「じゃ、予約が入っているの?」「貸し切り、それも三週間!」それが本当なら、かなり大がかりなものだろう。私も座り直した。「他に何か聞こえた?」「もちろん!ちゃんと立ち聞きしたんだからね」「いばらないの」と、私は苦笑した。「大スターが来るんだって」「本当?---あの大スター?」思わず訊いていた。これは確かに凄い。アイドルスターではないけれど、やや中年にさしかかった、渋い魅力で、若い女の子にも人気のある、正真正銘のスターだ。「ね、ビックニュースでしょ」「うん!確かにすごい」「もう一つ、とっておき」と、友だちが声をひそめた。・・・・「私、映画に出るの!」いきなりそう言われて、母がポカンとしていたのも当然のことだろう。「---あ、そう」と、タイミングのずれたあいづちを打って、「ほら、もうご飯だから、お茶碗出してよ」と、また動き出した。「はい」私は、食器戸棚から、お茶碗や小皿を出しながら、「ねえ、本当よ。映画にね---」「冷ややっこがあるから、深めのお皿ね。何の映画なの?学校のPR映画か何か?」「うちの学校何をPRするのよ」と、私は顔をしかめた。・・・・「映画のロケが来るんだって、この町に」「本当に?---へえ、じゃ、大変ね」まだ、大してわかっていないようである。「それにね、エキストラの女学生役で三人、演劇部から出ることになったの。もちろん、私もね」「あら、そうなの」やっと少しびっくりしてくれた。・・・・「ねえ、誰がロケに来ると思う?」「さあね。知っている人?」「もちろんよ!---大スター、あの大スターが本当に来るんだって」ガシャン、と派手に器が砕けて、私は仰天した。・・・お母さん、怪しー!静かな町に、ロケ隊が来るんだって、何か起きますよね!


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