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◆三毛猫ホームズのプリマドンナ
いやな予感がしたのである。「大体だな---」片山義太郎は言った。「人を選ぶってことを知らないんだ、うちの課長は。お前だって、そう思うだろう?ともかく、面倒な仕事があると、みんな俺に押し付けりゃいいと思っている」すっかりむくれている。片山刑事は続けて、「そりゃ、課長が俺のことを嫌っているとは思わないさ。こうして、本来なら捜査一課と何の関係もない仕事に駆り出されるのも、俺が血に弱いことを知ってて、少しでも殺人現場を見ないですむようにしてやろうという親心・・・・。いやいや」と首を振って、「課長はそんなお人好しじゃない。やっぱり、何か面倒なことが起こりそうで、しかも人手はさけない。そんな時にゃ、俺を出すんだ」片山刑事は、ゆっくりと肯いて、「俺が出て来りゃ、当然のように晴美の奴もついて来る。それにまた石津がくっついて来て、おまけに、お前もついて来る---」「ギャー」と、片山刑事の話し相手(?)の三毛猫は、抗議の声を上げた。・・・片山刑事、分かってるじゃん。悟りを開いたか?今回は、〈音楽コンクール〉の警備だ。コンクールの審査委員長から、栗原警視に依頼があったのだ。・・・「やあ、これはこれは!」広いロビーに響き渡るような張りのある声で、審査委員長が大股に歩いて来た。その足取りの力強さ、会うなり相手を圧倒するようなエネルギー。---六十を過ぎても、日本の代表的な指揮者は、若者よりも更に若々しかった。「いつも厄介なことばかり頼んで、すまないね」片山刑事は、握手をして、審査委員長の大きな手、その力強さに、改めてびっくりした。白髪だが、それが少しも「老けた」という印象を与えない。「いえ、とんでもない。お役に立てば・・・・」と、片山刑事な言うと、ホームズが、「ニャー」と、冷やかすように鳴いた。うるさい、と片山刑事はホームズをにらんでやった。「あと十分ほどでコンクールが始まる」と、審査委員長は腕時計を見て、言った。「一応、事情はおたくの栗原さんに話してあるが---」「はあ、もし、よろしければ、もう一度、説明していただけますか」「いいとも。では、ちょっと腰をおろそう」審査委員長は、人気のなくなったロビーの椅子に、腰をおろした。「---大丈夫なんですか?」と、晴美が心配して、「コンクールの方は・・・・」「大丈夫」と、審査委員長は肯いて、「私がいなきゃ始まらないんだから」なるほど、と片山刑事は思った。・・・音楽コンクールって、やばいよね?事件が、絶対起こりますよね?さて、今回は、どんな事件が起こるのでしょうかね?
『シリーズ登場人物』
◆三毛猫ホームズのモーニング・コール
「失礼」と、声をかけられ、振り向いて、目の前に警官が立っているのを見ても、男は別にギョッとするわけでもなく、青ざめもしなかった。来たか、と思ったのである。しかし、いやに早いな。「はあ」と、男は言った。「いや、何してらっしゃるのかと思いましてね」と、警官は言った。男は少し戸惑って、それからやっとわけが分かった。この警官は、彼のことを知っていて、声をかけて来たわけではないのだ。考えてみれば怪しまれるのも当たり前で、今は夜の十一時過ぎ。ボストンバックを手に、陸橋の上で、手すり越に下を行く私鉄の電車を見下ろしていれば、パトロール中の警官が気にするのも、無理からぬことだろう。「ご旅行ですか」と、警官は、バックを見て訊いた。さすがに、「家出ですか」とは訊かない。何といっても、男は三十歳だ。「出張からの帰りで・・・・」と、男は言った。「列車で少し飲んだもんですから、夜風に当ってたんです」「ああ、なるほど」と、警官は、男の様子が、きちんとしていて、いかにも一流企業に勤めている、という印象だったせいか、すぐに納得したようだった。それに、男は嘘をついてはいない。ただ、詳しい話をしなかったというだけのことである。「あの・・・・何か?」と、男は訊き返した。「この近くですか?」「十分ほどの所です」「そうですか。いや、この辺りで三件ほど強盗事件が続きましてね」「強盗ですか」「ですから、遅くなって出歩くのも物騒だと思って。---これから、すぐお帰りですね」「そのつもりです」と、男は答えた。「じゃ、お気を付けて」「どうも・・・・」「失礼しました」なかなか礼儀正しい警官だ。このところ警官がやたらにいばる、と、評判が悪いだけに、男は少し関心さえしていた。男が、警官がいなくなった後で、本当に自宅に向かって歩き出したのは、その警官の礼儀正しさのせいだったかもしれない。あの警官に「帰る」と言った以上、帰らないと申し訳ないような気がしたのである。「俺の決心もいい加減なもんだな」と、男は苦笑まじりに呟いた。男は、あの陸橋から飛び下りて死ぬつもりで、列車の通るのを待っていたのだ。列車が来る前に、警官が声をかけて来たのである。「---ま、いいか」と、男は夜空を見上げた。---自分の家が見えて来て、男は戸惑った。・・・・こんな時間には、もうほとんど人通りも絶えてしまうのが普通である。それが---男の家の前に、ずいぶん人が集まっている。男は、パトカーの赤い灯に気が付いて、「何だ、ずいぶん早いな」と、呟いた。・・・さーーて、一体何があったのでしょうか?ホームズたちの出番は?モーニングコールは??
◆三毛猫ホームズの古時計
「ハッピーバースデー、トゥーユー」突然、歌声が広間に満ちた。大きなワゴンにのせたバースデーケーキは、直径一メートルもあろうかという大きさだった。それが、まるで王様の入城、といった様子で、しずしずと広間の真ん中へ進んで来る。ワゴンを押しているのは、二人の孫娘だ。・・・・車椅子に乗った老人は、少しきまりが悪そうに、両手を毛布をかけた膝の上で組み合わせて、ワゴンの到着を待っていた。二人の孫娘は、精一杯、ワゴンを思い通りの方向へ押して行こうとするのだが、何といっても、この邸宅そのもののように、木製のワゴンも、どっしりと重く、丈夫に作られていて、なかなか子供の手に負えるものではなかった。八歳と七歳の二人の力では、ただ押して行くだけでも容易なことではない。二人の額には汗さえ浮かんでいた。・・・・やっとこさっとこ、二人の孫娘がワゴンを迷路から脱出させて、おじいちゃんの前に停車させた。「ご苦労さん!」老人は、二人の孫の頭を左右の手で撫でてやった。「二人ともいい子だ!本当にいい子だ」二人の孫娘は、少し息を弾ませながら、顔を見合わせてニッコリと笑った。嬉しそうな笑顔だ。ケーキの上に、ロウソクの火が揺れている。「七十本にしようかと思ったんだけど」と、タバコをゆらしながらやって来たのは、長女だ。・・・・「早く吹き消していただかないと、ロウがたれてしまって、ロウを食べることになりますよ」「そうだ。父さん、力一杯フーとやってくれよ」と、長男が父親の肩をポンと叩く。「よし。じゃ、行くか。---たった七本か。これじゃ面白くも何ともないな」「よし。七本全部が消えなかったら、私、ケーキの半分、一人でいただきますよ」と、老人のわきに立って言った若い女、老人の秘書だ。「こう見えても、足は不自由でも肺は丈夫だぞ」と、老人が肯いて見せ、二人の孫の方へ、さ、見てろよ、おじいちゃんが一ぺんにロウソクを吹き消してやるからな」「あ、明かりを消しましょう。その方が面白いわ」老人の秘書が、急いで、広間の入り口の方へ走って行き、明かりのスイッチに手をかけて、「いいですか、消しますよ」と、言った。カチッと音がして---広間の明かりが消えた。バースデーケーキの上の七本のロウソクの火だけが、揺らぎながら、老人とその周囲の一族だけを照らし出している。「よし。一、二、の三!」老人が大きく息を吸い込むと、ケーキの上のロウソクに向かって吹きかける。二つ、三つ---たちまち火は消えて行き、一息で全部の火が消えた。「やった!」拍手が起こった。・・・広間の中は真暗ですよね?絶対何か起きますよね?今回は、何が起きるんでしょうかね??


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