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◆行き止まりの殺意
「---待ってよ!」校門を出ようとした少女を、聞き慣れた声が呼び止めた。振り向くと、走って来る親友の姿はもう黄昏に紛れて、ほとんど影絵のようになっていた。「どうしたの、クラブ、あるんでしょ?」と、少女が言った。「うん。---いいの」親友は息を弾ませながら、「一緒に帰りたかったのよ」気をつかってくれているんだ。親友は、そういう点、変にごまかしたり、言い訳したりしない。そこがいいところなのだ。「じゃ、帰ろう」と、少女が言った。正直、ありがた迷惑でもある。本当は、一人、いささかの感傷に浸りながら、学校を後にしたかったのだ。もう二度と、この学校に来ることはないかもしれないからだ。でも---もし、一人だったら、逆に誰かと一緒にいたいと思ったかもしれない。人間なんて勝手なものだから。高校一年生がこんなことを考えるのは、おかしいかしら?でも、今はそんなこと考えないではいられないのだ。特に今は・・・・。親友が、少女の肩に、腕を回して、「元気出して。---ね?」と言った。思いがけず、胸が熱くなって、目頭に、涙が浮かんで来る。私はちょっとあわてて、「大丈夫。もともと一人だったようなもんだから」と強がって見せた。・・・・「先生と、何の話、したの?」歩きながら、親友が言った。「別に」と、少女は、軽い鞄を振り回すようにしながら、「学校のことよ。これからどうするか、ってこと」「どうするの?」「分かんないわ」と、少女が首を振った。「経済的な問題もあるしね。月謝、払えないんなら、免除してもらうようにするって、先生、言ってくれたんだけど」「優秀だもん、いいじゃない。そうしてもらえば」「うん、だけど・・・・まだ未成年だものね。親戚一同で、話し合ってどうするか決めるんでしょ。先生にも会いに行って・・・・」たぶん、そうにはならないだろう。---そう。少女には分かっていた。いくら未成年だって十六なのだ。人を殺せば、元のとおりに私立高校へ通うというわけにはいかないに違いない・・・・。うむ、この少女、何があって、何をしようとしてるんでしょうか?行き止まりの殺意??いやー、でも、危ないところを、知らないおじさんとおばさんに救われるんですよね。よかった。
◆犬
「本当に大丈夫なんだろうな」と、建設会社の社員は念を押した。「ご心配には及びませんよ」若い同僚が、いとも楽天的な声で応える。「もう半月たっているんですからね。いくらあいつがタフだって、起き上がることもできないくらい、弱っているはずです」「だといいがね・・・・」社員と同僚の二人は、雑木林を出たところで、足を止めた。---別に、立ち止まらなくてはならない理由はなかったのだが、やはり、同僚も、内心の恐怖を、押し隠しているのだ。目の前に、ぬけがらになった町---空っぽの町があった。古びた、木造の家が、ぎくしゃくとした通りを挟んで、ひからびた大蛇みたいにのたくっている。もちろん、何の物音も、聞こえては来ない。何しろ、ゴーストタウンなのだから。・・・・それほど難しい仕事ではないはずだった。社員は、これまでに何度も同じ仕事をくり返して来た。開発のための、土地買収。---社員はそのセクションの責任者である。この町を取り壊して、レジャーランドを造るという計画が持ち上がったのは、つい一年前のことだった。予想外のテンポで話が進み、土地の買収もスムーズに運んだ。・・・・ここから早く出ていきたいと思っていた人も少なくないようで、交渉は大いにはかどった。ただ一人を除いては・・・・・。半年前の冬、それは声というより、低い振動だった。何だろう?社員は、崩れかけた塀から中を覗きながら、首をかしげた。「---XXさん」と、社員は呼んだ。「XXさん。いらっしゃいますか」ただ古いというだけではない、もう今にも壊れてしまいそうな家。---ここに人が住んでいるのか?・・・・「XXさん。---失礼しますよ」ガタつく木戸を開けて、社員は、枯れた雑草で一杯の庭へ入って行った。・・・・何かが、背後で動く気配があった。振り向いた社員めがけて、黒い、巨大な塊が飛びかかって来た。「助けてくれ!」目の前に、真っ赤な口が迫った。鋭い牙、体を震わすような唸り声。・・・・「やめろ!」と、頭の上で声がした。「離れるんだ」・・・・「分かっている。他の連中は知らんが、俺はこの土地を売る気はない。帰ってくれ」・・・・。困った社員は、犬のえさを断つ策を講じて半月、同僚と一緒に、この家を訪れたのであるが・・・? 地上げね?むかしから、あくどいことしていたので、題材にもってこいですね。
◆真夜中の電話
アルバイトは留守番が一番だわ。仕事なんて、あるようでないようなもんだし、いくらのんびり風呂につかっていても、誰も文句は言わないし、TVをつけっ放しにしていたって、「もったいないから消しなさい!」なんて怒鳴るお袋さんもいない。ただ、電話がかかれば、取って、「今、みなさん出かけてます」と返事をする。本当なら、「お伝えすることがありましたら、承っておきますが」と言わなきゃならないのだが、できるだけ手間は省きたいので、向こうが、「じゃ、戻ったら伝えて下さい」と言わない限り、黙っている。今のところ、それほどの大切な用件でかかって来た電話は一本もない。「あーあ」と、女子大生の留守番者は大欠伸をした。三日間、留守宅に寝起きして、二万円。---悪くない。その三日間も、すでに残りは一日。明日の夜には、この家の主が帰って来る。・・・なるほど、留守番ね、このころはまだ、留守番電話機が、普及していなかったんで、留守番の仕事ってあったんですね。確かに何もなければ、こんな楽な仕事ないですよね。でも、そんなにすんなり終わるわけありませんよね。・・・・「寝るかなあ・・・・」もう、十二時を回って、TVの方も、大した番組はやっていない。・・・そうだよね、昭和は、TV観るしかなかったよね。今の若者は、TV見ないらしいですね。・・・・仕方ない、寝るか、と、立ち上がった時、電話が鳴った。「こんな時間に---」誰かしら、と居間の隅にある電話へと駆け寄る。この家の主人の息子の、留守番者と同級生からだ。心配しての電話だ。気をつかっているのだ。電話を切って、今度こそ寝るか、と居間を出ようとすると、また電話が鳴り出した。今度は、この家の主人の会社の社長からだ。会社の金、一億五千万円を横領した疑いで、警察が、この留守宅に来るかもしれないとのことだった。そして、玄関のチャイムが、けたたましく鳴った。・・・ドアを開けると、まるで突風が吹き込んで来るように、女が一人、凄い勢いで飛び込んで来た。女は、この家の主人の恋人で、主人が帰ってくるまで、この家で待つというのだ。・・・・また、玄関のチャイムが鳴り出した。玄関の鍵をかけていなかったので、留守番者が出てみると、もう、二人の男が、入って来て、上がり込むところだった。「誰なの、勝手に上がり込んで!」と、留守番者は怒鳴ったが、一向に応える様子もなく、「警察のものだ」と、ぶっきらぼうに言って、「あんたは?」「留守番です」留守番者は、うんざりして言った。・・・うんざりね、さっきまで「二万円、悪くない」何て言っていたのに・・・・でも、これからですよ、本格的な事件が勃発するのは、どうなることやら?
◆あの人は今・・・・・・
「ええ?またかい?」探偵は思わずそう言った。机の上に投げ出していた足を下ろして、その話を持ってきた週刊誌の記者の顔をまじまじと眺める。「そう言うなよ」と、記者は渋い顔でタバコを灰皿へ押し潰した。「別に俺の企画じゃないんだ。上の命令だ。仕方ないじゃないか」「まあ、こっちは構わないけどね」探偵は肩をすくめた。「---今度は誰を当るんだい?」・・・「五人ほどリストアップしたんだ」と記者はメモを出して、言った。「その内、四人は大方の見当はついた。ただ分からないのが一人いる。それを調べてくれ」「どうしてここに持ち込むんだ?」「お前の知っている相手だからさ」と記者は思わせぶりに言った。「へえ」「XXXXXXだ」探偵は、ちょっと面食らって返事ができなかった。---よりによって!「誰なの、それ?」と、お茶を出しながら、事務員の子が訊いた。「探偵さんの恋人?」「やめてくれよ」と探偵は言った。「また例の企画さ。〈あの人は、今・・・・・・〉ってやつだ」「ああ。昔、有名だった人が今、どこで何しているかってことね?よく載っているじゃないの」「全く、企画に詰まると出て来るんだからな」「仕方ないさ」と記者はのんびりと言った。「読者が喜ぶんだからな」「どうかね」「本当だよ。みんな他人の不幸には大喜びするもんだ」・・・昭和の時から、やってましたよね〈あの人は今〉。確かに気になりますよね。今もやっているのかな?私は、週刊誌を見ないから分かりませんが?ちょっと調べたら、そういうサイトがありましたね。また、刊誌の記事に対し、プライバシー侵害で違法とする判決が下った例もあるみたいです。まあ、確かに、そっとしておいてほしいですよね。私は、有名人じゃなくて、良かった。・・・・「その人---XXXXXXって、どんな人なの?」「亭主を殺したんじゃないか、って疑いをかけられた女なんだ」「へえ、夫殺し?」「彼女は二十六、亭主はもう六十近かったんじゃないかな」「じゃ、後妻だったの?」「そのとおり・・・・・・」こういう話って、あるんですよね。今でも、TVをにぎわしていますよね。・・・・「あら、あのときの探偵さんでしょ」幸先がいい、探偵は思った。八年も前に会ったきりの女性に、顔を見るなりそう言われるのは珍しい。「よく覚えているね」探偵は、スナックのカウンターによりかかった。---まだ時間が早いので、客は一人もいない。カウンターの内側で、彼女もヒマそうだった。・・・・「---何か用事?」「うん、---XXXXXXを捜しているんだ」・・・・そして、探偵は、XXXXXXさんに会うことに成功するのであるが、スナックのママたちの機転で、XXXXXXさんのプライバシーは、守まれるのである。まあ、良い話でした。
◆わかれ道
本作、ちょっとやりすぎって感じでした。右へ行かなきゃ、右へ・・・・。そう思っていながら、つい足は左を向いてしまう。そんなことが、人間にはたまにはあるものである。・・・そんなことないですよね、右へ行かなきゃなら、右行きますよね。・・・・運転しなれた道だ。迷うはずもなかった。というより、山の上の自宅から、駅までの道の往復以外、奥さんが車を運転することはほとんどなかった。山の上---高台、と呼べば聞こえがいいが、実際には山の上に、建売住宅が、貼りつくように並んでいた。バスもないので、通勤して行く夫たちは、ミニバイクを使うか---自転車では、下りはともかく、上りは地獄だ---車で往復するしかない。・・・そうですね、このころはまだ、電動アシスト自転車が、なかったですよね。今だったら、この話、通用しないですよね。私も、時々、電動アシスト自転車を乗りますが、楽ですよね。坂道なんかスイスイです。・・・・しかし、自分で運転していくとなると、駅前に車を置いておく場所がないという問題があった。有料駐車場はあるが、ただ野ざらしの空き地で、月に一万四千円の出費はいかにも馬鹿らしい。結局、朝と夕方、妻が夫を駅まで送り迎えするのが最も経済的で効率もいいことになり、実際、そうしている家が一番多かった。---その朝も、いつものとおり、奥さんは夫を乗せて、ハンドルを握った。「今夜は早いの?」と、奥さんは訊いた。「分からないな。電話するよ」と、夫は言って、欠伸をした。実のところ、このやり取りは、まるでテープの再生みたいに、毎朝くり返しているのである・・・・。---いつものとおり帰り道だった。下った坂を、今度は上がる。それだけの違いだ。少し遅めの出勤の人が、やはり車ですれ違っていく。おかしいくらい、いつもと同じ辺りで、同じ車とすれ違う。きっと向こうもそう思っているだろう。たまには違う車とすれ違ってみたい。それだけでも、一日が新しく見えるかもしれないわ、と奥さんは思った。ただ一つの、わかれ道に来た。一本、舗装していない道が、左手に伸びているのだ。もちろん、奥さんはいつも右へ、舗装された道を辿って、家へ帰るのだ。右へ。右へ・・・・・・。どうしたのだろう?何がどうなったのか?その一瞬の記憶が、奥さんの指の間からすり抜けるように落ちて行った。ハッと気付いたときには、車は左へカーブしていたのだ。そして、奥さんは、どんどん、細い道を辿って進んでいくのだ。そしてさらに、やりすぎじゃないって、ことに巻き込まれていくのだ。
◆旧友
抱き寄せられそうになって、彼女は、つい反射的に相手の胸に手を当て、押し戻していた。「どうしたんだい?」と、彼氏が眉をひそめる。「いやなの?」「そうじゃない。そうじゃないけど・・・・」彼女は、ためらいがちに言った。「---何だよ?」彼女は、不安な思いで、周囲を見回した。いつも、彼氏がデートの後、こうして家まで送ってくれるのは当たり前のことだし、もう一年近くも付き合っているのだから、家の前で別れるとき、キスぐらいしたっていいじゃないかと彼氏が考えても、それを責めることはできなかった。「ねえ---今度、ゆっくり・・・・。どこか、落ちつける所でね」と、彼女は、笑顔を作って言った。彼氏は、ため息をついた・・・・。「天然記念物みたいな人だな」「まあ」彼女は、ちょっと彼氏をにらんで、「じゃ大事に保護してくれなくちゃ」と言ってやった。・・・うまい、座布団一枚!しかっし、彼女は、もう二十四歳にもなったOLなのだ。キス一つしないなんて、確かに、天然記念物だ。でも、これには、訳があるのである。・・・・彼女は、彼氏のすがたが、角を曲がって見えなくなるまで、自宅の門の前に立って見送っていた。・・・・彼氏の姿がみえなくなると、彼女は、ホッとした。・・・・彼女は、気配を感じた。---何かがいる。自分は一人ではない。音も、何も聞こえなかったが、彼女は、自分をじっと見つめる視線を感じた。どこからか、見られている。そして・・・・。低い低い、すすり泣くような声が---いや音が、聞こえて来る。彼女は、ジリジリと後ずさって、門の中へと入って行った。・・・・彼女が、中学一年生の時、酔っ払いに襲われた。彼女はセーラー服が力まかせに引き裂かれる音を聞いた。そして---。そのときだった、男がハッと体を起こした。そして、男は死んだ。彼女が、中学三年生の時、不良グループにリンチされそうになったが、何者かに、救われた。彼女が、高校二年生の時、テニス部の地区予選に出場するメンバーを選ぶため、気に入らない先輩と試合をすることになったが、試合の直前に、先輩が、怪我をした。彼女が、高校三年生の時、好きになった少年が、彼女の家に遊びに来が、次の日、少年が、工事現場で、穴に落ちて死んでいるのが見つかった。彼女、何者かに監視され、何かあるごとに、その何者かが、行動するらしいのだ。そのため、彼女が、今の彼氏と、積極的になれないのである。さて、どうなるのでしょうか?
◆消えた会議室
朝、仕事にかかる前の一杯のお茶。これがおいしいかまずいかで、その日の気分はずいぶん違って来るものである。おばさんは、そこをよくわきまえていた。以前は、女子社員が一日に三回、交替で淹れてくれたが、今は味気ない自動給茶機というのが二台備え付けられているだけだ。ただ、さすがに朝ぐらいは、という希望もあって、おばさんがここ三年ほど、毎日パートタイムで、お茶淹れに来ていた。・・・お茶くみね、女子社員の仕事でしたよね、でもこのころ、男女雇用機会均等法の走りが、既に施行されていたんですね。・・・・その朝も、九時二十分には全社員、五十人のお茶を淹れ終わった。そろそろ頻繁にかかり始めた電話の対応に忙しい交換嬢をつかまえて、「ゆうべは?」と訊いた。会議があったのか、という意味だ。会議などで使った茶碗を洗うのも、おばさんの仕事なのである。「いいえ」という返事に肯いた時、「あら、でもゆうべ誰かがみえたみたいよ」と、女子社員が、言葉を挟んだ。「そう?」と交換嬢がけげんな顔をする。「じゃ一応覗いてみるよ」おばさんは会議室の方へ歩いて行った。このビルは、エレベーターと、それに続く廊下でほぼ二分されている。この会社の場合、エレベーターから見て右手がオフィス。左手は会議室、資料室のスペースだった。オフィスが手狭なわりに、会議室は六つもあり、普段は遊んでいることが多いという不満も絶えなかったが、別に改善もされずにそのままになっている。おばさんは第一会議室から順に、第二、第三、第四・・・・と覗いて行ったが、汚れた茶碗など影もない。一番奥の第六会議室のドアを開けようとして、おばさんは、ドアについているプレートに目を止めた。「誰だい、こんないたずらを・・・・」プラスチックの板に〈第六会議室〉と印刷したものが、その上から白い紙を貼って、マジック・インキで〈第七会議室〉と書いてあるのだ。おばさんはその紙を破り取って丸めると、廊下のくずかごへ放り込み、第六会議室のドアを開けた。その男はドアから一番近い席に、ドアへ背を向けて座っていた。机に突っ伏して、眠っているように見えたが、目は虚ろに開かれたままだ。男の前には、空になった湯飲み茶碗が置いてあった。おばさんはオフィスへ文字どおり転がり込んだ。死んでいた男は、昨日の二十時の会議の開催通知のハガキを持っていたが、会場が〈第七会議室〉となっていたのだ。いったいどういうことなのか?最後にあったが、「七」は、〈しち〉ではなく〈なな〉と呼ぶようにしましょうね!


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