不思議の国の吸血鬼(集英社)

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◆不思議の国の吸血鬼
「危ない!」という叫び声。キーッという悲鳴のようなブレーキの音。そして---火花が夜の中に飛び散った。「きれい!」と、思わず言ってしまったのは、大月千代子だった。だが、誰もその言葉を不謹慎だととがめなかった。それどころじゃなかったのだ。ガーン、と金属のぶつかり合う音が聞こえて、その車は道のわきに停めてあったトラックに激突していた。「---凄い!」橋口みどりが、やっと口を開いた。誰もが、しばらく動けなかった。---これ、本当のことなの?目の前で、こんなのとが起こるなんて・・・・。いやー、私もありました、目の前での交通事故。小さいころ、友だちと、バス停でバスを待っていたら、乗用車と大型トラックの正面衝突。乗用車が、私たちの方へ、弾き飛ばされたので、焦りました。・・・・「早く!助けに行かないと」「---う、うん。そうか。もちろんだ!」クロロックとエリカのふたりは、一緒にレストランを飛び出していった・・・・。「遅れちゃう・・・・」と、その娘は言った。「え?」エリカが顔を寄せると、「何て言ったの?」「急がないと・・・・。遅れちゃう・・・・」そう、はっきりと言って、娘はガクッと頭を落とした。・・・・燃える車から、やっと助け出したものの、その娘のけがはひどかった。レストランの前の芝生に横たえて、介抱してみたが、とても間に合いそうもなかったのだ。「---トラックの中には誰もおらん」クロロックがやってきた。「どうだ、その娘は?」「だめみたい」「そうか・・・・」誰もがシュンとしていると---突然、その娘が、「誰か届けて!」と、叫んだので、みんな仰天してひっくり返った。・・・・「何を届けるのだ?」クロロックが耳もとで訊くと、娘は、それを理解したらしい。震える手が、ジャンパーのポケットをさわる。「この中か?」クロロックは、ポケットを探った。「何か入っている?」「うむ。小箱のようなものだ」クロロックの手にスッポリ入ってしまいそうな、四角い包み。「重い?」「いや、軽い。木か何かだろう」「これを---どこえとどけるの?」エリカが訊く。娘は、最後の輝き、とでも言うべき元気を取り戻して、「反対のポケットに・・・・住所が」と、言った。・・・・「それを・・・・届けて」もう生命の火は消えかかっている。クロロックは、娘の手をしっかりと握り、「大丈夫。任せておけ」と肯いた。「このエリカが、必ず届けてくれるからな」・・・・「ありがとう・・・・」娘が、微笑んだ。そして---再び目を閉じる。・・・・エリカは、メモを広げてみて、言葉を切った。衝突した時、オイルか何かが飛んで、ポケットの中にしみ込んだのだろう。メモ用紙に、大きなしみができていて、文字がほとんど読めなくなってしまっているのだ。どうする?エリカ!吸血鬼だって、むりなんじゃないの??
『シリーズ登場人物』

◆吸血鬼と13日の日曜日
空が抜けたかと思うような、凄まじい一撃が、病院を揺るがした。「---落ちた!」・・・雷だ。雷怖いですよね、今住んでいるところの周りは、畑ばっかりで、高い建物なんか無いんで、本当に怖いです。・・・・一瞬、電気が消えた。真っ暗な中に、「どうしたの!」「何があった!」と、騒ぐ患者たちの声が飛び交う。「発電機は?」と、当直医は大声で言った。「動くはずですけど---」チカチカと照明がまたたいて、点いた。「やれやれ」当直医は、息をついた。「凄いな!ここに落ちたよ」「十年ぶりってことですわ」と、ベテラン看護師も、さすがに胸を押さえている。「---何の騒ぎだ?」キャー、という叫び声と共に、若い看護師が走って来る。「どうしたの?」「火事です!」と、若い看護師が青い顔で駆けてくる。「古い病棟の方から火が---」「急いで避難を!」と、ベテラン看護師が叫んだ。「消防署へ連絡してください、先生!」「分かった!」当直医は、火災報知機へ駆け寄り、カバーを叩き割って、中のボタンを押した。赤いランプが点く。「よし、これで---」当直医は、ベテラン看護師の後ろから駆けだそうとした。そして---目が、チラッと手術室の窓から、中の様子を見ていた。「まさか!」と、当直医は呟いていた。手術台は、空だった!まだそこに、遺体はあるはずだ。そんな馬鹿な!当直医は手術室の中へと入っていった。確かに、手術台の上には患者がいなかった。---なぜだ?たった今、ここに横たわって、もう命の失われた肉体と化して・・・・。ガチッ、と何かの動く音がした。当直医は振り向いた。---メスなどをのせる台が、ゆっくりと動いている。「誰かいるのか?」と、当直医は声をかけた。「おい・・・・」歩み寄って---やめておけば良かった、と思った時はもう手遅れだった。それが立ち上がった。こんな---こんなことが!これは悪夢だ!叫び声を上げる前に、その手が、しっかりと当直医の首をつかんでいた。そして、強く強く、締め上げた。当直医の体からぐったりと力が抜けると、それは手を離した。当直医が床に崩れ落ちる。それは、ややぎこちない足取りで、手術室を出て行った。病院の中は、避難する入院患者、誘導する看護師で、戦場のような騒ぎだ。誰も、それには目を留めなかった・・・・。「13日の日曜日?」なのである?ジェイソンと吸血鬼、どっちが強い?クロロックとエリカは、勝てるのか??

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