砂のお城の王女たち(新潮社)

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◆砂のお城の王女たち
二十八歳の商事会社の独身の男が、アメリカへの長期出張から帰って来た。夕食を終え、マンションに帰るのであるが、憂鬱だ。なんてったって、出張の五年間、マンションの部屋は、閉めっきりで放っとかしでいたので、部屋中を掃除しなければならないからだ。分かります。私が別荘を買ったとき、たぶん一年くらいの空き家だったんですが、掃除が大変で、お風呂場は手に負えず、業者に掃除を頼んだくらいでした。マンションの部屋に着き、鍵を鍵穴へ差し込みながら、錆びついて空かないんじゃないかと思ったが、軽やかにカチャッと、快い手応えで開いた。明かりのスイッチがどこにあったのか、すっかり忘れていて、散々見当違いな辺を手で探ってから、やっとスイッチを押した。そして男は、しばらくポカンと突っ立ったまま、動けなかった。そんなに酷かったの?と思いきや、部屋が五年前とガラリと変わっていたからだ。カーテンが、可愛いピンク色の花柄になったり、ソファーやテーブルに、コアラだのパンダだの絵の入ったカバーがかかっていたりしている。どうも若い女性が、部屋を使っているようなのだ。一回りして、リビングに戻ると、まるで空中からパッと現れたかのように、十二、三歳と見える女の子が二人、立っていたのだ。こんなとき、どう言えばいいものか分からず、「--やあ」と、声をかけた。少女たちは、何とも厳しい顔つきで、こっちがたじろぐそうな、鋭い口調で、「あなた、ここで何しているの?」と、言ったのだ。男は、しばらく、ただびっくりしていたが、立ち直り、「君たちはいったい誰なんだい?」と訊くと、「こっちの質問に、先に答えてよ」と来た。「この部屋の持ち主だよ」と答えると、「ここは、私たちの部屋よ」きっぱり言うのだ。少女たちが、ここに始めて入ったとき、空気は汚くていやな匂いがするし、お風呂場の壁や天井はカビだらけだったし、クモの巣があっちこっちに・・・・・、だったのを、きれいに掃除して、カーテンなんかを交換して、住めるようにしたので、少女たちの部屋との主張なのだ。たしかに一理あるので、男は、少女たちに部屋を使わせることにしたのだが・・・ そんなことして、大丈夫なんですかね?

◆神童
神童ね!いますよね、神童。でも大体、10歳で神童、15歳で才子、20歳過ぎればただの人、になっちゃうんですよね。これって、幼児教育で高い能力を身につけたから「後は放っておいても大丈夫だろう」という親の油断によって起こってしまうらしいですね。やはり、継続的な教育が必要なんですね。夫「まあ、そこそこやればいいよ」、妻「そうね、まあ落第しない程度にね」という、欲のない、ごく普通の夫婦。十歳になる一人息子がいたが、子供に多くを望んでも無理というものだと、塾や教室などには通わさせず、好きなようにさせていた。その息子の帰りが、最近かなり夕方遅くになっていて、少々気になった母親が「どこへ行っていたの?」と聞くのであるが、息子は「遊んでたんだよ」と答えるだけであったが、息子を信用している母親は、それ以上深くは訊かなかった。そんなとき、息子の同級生のお母さんから、お子さんピアノをやってるんですね、と聞かされた。息子に「ピアノの先生のところに遊びに行っているの?」と訊くと、「うん」と、素直に言う。「ピアノ習いたいの?」と訊くと、「もう習ってるもん」との回答。「お月謝は?」には、「いらないって」とのこと。母親が、ピアノの先生の家を訪ねると、息子が言う通りだった。息子が、友達について、教室を訪れ、目を輝かせて、ピアノを見つめているので、先生が「あなたも弾いてみる?」と、弾かせると、聴いていた曲を、いともやすやす弾いてしまったのこと。それから四か月、空いた時に、先生が息子を教えていたとのことだ。母親が「月謝は?」と訊くと、「こんな子に巡り合ったのは、私の幸運ですわ」と、いらないと言う。いやー、それからは、お約束通り、「天才ピアニスト現れる!」と噂になり、TVなどに引っ張りだこに。父親が、駅前の食堂にいると、息子がTVに映り「おい、あの子知っているか」「この辺に住んでんだぜ」「TVに出たりCMに出たり、ぼろ儲けだ」「父親が会社を辞めて、マネージャーやっているらしいぜ」と、あることないこと言い放題。まあ、こうなっちゃうよね。さて、この神童、この後どうなるのでしょうか?

◆僕らの英雄
小学六年生の女の子が、有名人の男の子と、問題集選びに行くという。この有名人の男の子と一番仲がいいのは私なんだからと、母親に自慢している。この男の子が、塾の帰りの電車の中で、気分の悪くなった年配の婦人を、世話して、自宅まで送って行った。この婦人の甥が新聞記者で、当節の、クールな子供たちの中に光る「善意」の象徴にしようと、家に取材に行くと、誰一人、男の子のしたことを知らず、その日は帰りが遅くなって叱られたのに、男の子は、一言も言い訳をしなかったことが分かり、地方版ながら、大々的に報道したのだ。その後、学校にインタビューに来て、新聞に男の子の写真が載ると、TV局が目を付ける・・・・・。こうして男の子が、有名人になったのだ。学校からの帰りに、女の子が、有名人の男の子と、本屋に寄った。問題集を見つけて、有名人の男の子に「これに決めた」と言うと、「まだ迷っている」「先に買って」と言うので、買ってから、好きなスターの写真集を見たりして、ふと目を上げると、万引き防止用の凸面鏡があった。ちょうど、書棚の向こうにいる有名人の男の子が、映っていた。そして、有名人の男の子のすぐ後ろを、買い物中らしい、手さげを袋を持った主婦が通りかかった。そのとき---女の子は一瞬、目を疑った。男の子が、手にしていた赤い表紙の本を、その主婦の買物袋へと、滑り込ませたのだ。「何だっていうのよ!」「こんなもん、知らないわよ!」「でもね、お客さん、こうやって入っているじゃありませんか!」「知らないったら、知らないわよ!」「じゃ、本が勝手にそこへ、飛び込んだとでの言うんですか!」・・・・の騒ぎ。さらに女の子は、もう一度、信じられないものを見た。有名人の男の子が、手にしていた参考書を、自分の手さげの袋へと、素早く放り込んだのだ。女の子は、有名人の男の子と店を出た。女の子が「何かあったのかしら」と言うと「どこかの女が万引きしようとして、見つかったんだ。良くあるんだぜ」と平然と言うのだ。さて、女の子はどうするのでしょうか?

◆ゲームはおしまい
「人を殺すのってむずかしいのかな」、冒頭からやばいです。しかも、小学五年生の息子が言ったのだ。母親は、息子が本気で人を殺そうなどと考えていると思わず、笑って「早く食べないと遅れるわよ」と、答えたのだ。その息子が、三月の卒業式で、六年生を送る歌のリーダーに抜擢された。歌は、十人のコーラスで、息子は、指揮も行う。真面目な息子は、朝に学校で歌の練習をしようと、メンバーに声をかけたのであるが、時間通りに来たのは、息子とクラス委員の女の子の二人だけなのだ。「どうして来ないんだろう、みんな?」几帳面な息子は、理解できないのだ。息子は、学校を休むことはあっても、遅刻したことがないのだ。分かります、分かります、私も六十うん年の人生で、遅刻したのは、一回しかありません。(たぶん)家族は、平気で寝坊しますが、理解できません。まあ、遅刻してメンバーがぞろぞろ来たので、練習を始めようとしたのであるが、一人足りない。来ていないのは、乱暴者で通っている男の子で、父親が理事なので、無理やりメンバーにされたのだ。みんなが、「放っときなさいよ」と言うのだが、真面目な息子は「コーラスだもの。一人でも抜けたら、成り立たないよ」と、理事の息子を迎えに行くのだが、「勝手にやれよ。俺はいやだと」断られ、サッカーボールをぶつけられるのだ。真面目な息子は、困って、音楽教師に相談したのであるが、音楽教師は、みんなの前で、理事の息子を叱ってしまったのだ。息子が、先生に「言いつけた」と、クラス中の反発を買ってしまい、いじめが始まるのである。母親が、息子の様子がおかしいのに気付き「学校でなにかあったの?」と訊くが、息子の「別に」の答えに安心してしまう。ところが、母親は、買物先で、息子の同級生のお母さんから、息子がいじめにあっていることを聞かされる。そして、息子が夜中に、救急箱をあさっていて、一つのびんを取り上げるのを目撃した。睡眠薬だ。冒頭の言葉につながる。やばいぞ!

◆真夜中の子供たち
いやいや、昭和の子供たちは怖いですね。借金取り立てにあっている、三十七歳の夫と三十五歳の妻、そして、九歳の娘の親子の話しだ。ごく平凡な社内恋愛で、社内結婚し、娘の妊娠で、妻が勤めを辞めた。娘が生まれ、娘が小学校へ入るのを機会に、小さな建売住宅を手に入れた。三人家族なら、充分な家だったし、夫の収入から言えば、これが限界だった。もちろんローンは二十年に及び、頭金は貯金が半分と、妻の実家から半分出してもらっている。毎月の支払いは楽でなかったが、ボーナス時には多少、ぜいたくな買物もできたし、娘にピアノを習わせる程度の余裕があった。しかし、全てが狂いだしたのは、二年前のことである。妻の父が経営している小さな会社が、倒産の瀬戸際に追い込まれた。家の頭金を出してもらっているので、夫が駆けずり回って、やっと当座をしのぐだけの金を作ってやった。ところが、その直後に、妻の父が心臓発作で亡くなり、続いて母親もだ。会社を整理して借金を払ったが、夫が用立てた金は、まるまる借金となって残った。高い金利だけを、何とか返す日々が続いた。娘のピアノを止め、妻もパートで頑張った。ところが半年前の追い打ち、夫の会社が経営不振に陥り、ボーナスはゼロ、給料の支払いが滞った。ついに、金利を支払うために、更に借金を重ねたのだ。そして、借金の取り立てが始まった。夜中の二時、三時にいきなりやって来て、玄関先で、大声で名前を呼ぶ、明け方まで、十五分とおかずに電話を駆けて来る。寝不足と疲労で、限界に来ていた。そんな時、奇跡が起きた。夫が、たまたま、疎通になっている叔父の会社の近くを通りかかりたので、訪問したのであるが、叔父が、取締役に出世していて、話をすると、銀行に電話し、借金の返済に必要な額を、明日までに用意してくれることになったのだ。ウキウキで、家路を急いでいた夫が、何と誘拐されてしまったのだ。こんな借金まみれの男を誘拐しても、何もならないのに。目的は、いったいなんなのか? しかも犯人は、小学生くらいの四人組の女の子なのだ。いやいや、昭和の子供たちは怖いですねって話しです。

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