マザコン刑事の探偵学(徳間書店)

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◆理想的花嫁の事件
おー、大嫌いなマザコン刑事だ。「本当に、うちの息子は幸せ者だよ」というセリフを、日に何回も言う大学教授の話だ。それを聞くたび「本当ですねえ」と答える、教授の女性秘書。教授は、七十歳の高齢で、私立大学の「名誉職」として、籍を置いている。女性秘書は、この教授に、十年以上も勤めている。教授は、活字が恋人だというタイプの、古風の学者だが、活字と結婚できないので、四十代半ばで、教え子と結婚した。その二年後には、まずあり得ないと周囲が思っていないことが起こった。子供が生まれたのである。子供は男の子であったが、不幸にも、そのとき、妻を失った。その息子が、三か月前に結婚した。教授が言う「息子は幸せだ」は、「息子の嫁は本当にいい娘なんだよ」とのことから来ているらしい。その教授が、教授室で、青酸カリ入りのお茶を飲んで死んだのだ。何時もは、教授のお茶は、女性秘書が淹れるのであるが、その日の朝、女性秘書に「近所で起った交通事故について、話を聞きたいので、警察に出頭してほしい」との電話があり、警察に寄ったので、遅刻したとのことだ。そして、女性秘書が、教授室に入ったときには、既に教授は死んでいたとのことだ。なお電話は、いたずら電話らしかったとのことだ。大谷警部と弓江刑事が、捜査に当たる。弓江刑事が、女性秘書に話を聞いていると、教授の息子が来た。大谷警部は?っていうと、もちろんママとお昼の時間を過ごしているのだ。真弓は、その幸せな息子を見て、おや、と思った。ひどく疲れ切った印象を受けたのだ。それも、生活の疲れって、いうやつなのだ。「お父さんが、いつもお嫁さんを自慢してらしたそうですよ」と、弓江刑事が言うと、「親父が?」「冗談じゃない!」「もう離婚しようかと話しているんですよ。そんなにいい夫婦のはずがないでしょう」と来た。「こうあってほしい、っていう気持ちが、いつの間にか、本当にそうだと思い込む」「見栄もあったんじゃないでしょうか」・・・、ママと弓江刑事の会話だ。まともになってきている。それよりも、ママも神出鬼没は、激しさを増している。なぜ、こんな所にいるのって感じだが、そういう設定なんで、仕方ない。
『シリーズ登場人物』

◆エリートのひそかな楽しみ
エリートね?一流の国立大学卒、一流企業への就職、四十歳の若さで課長のポスト、スマートな容姿、動きもきびきびしていて、美しい、自他ともに認めるエリートらしい男の話だ。小汚い工業高校出の私としては、うらやましい限りだ。でも、いつも「エリートである」ことは、疲れることだった。分かりますね、出来そこないの方が、気楽で良いですよね。そんなエリート様が、家の妻に電話した。「会社だ」「しばらくかかるんだ。今夜は帰れそうにない」「仕方ないさ。仕事だからな」、噓ばっか、エリート様は、ホテルにいるのだ。そう、浮気だ?いえ、違います、このエリート様は、覗きが趣味なのだ。月に二、三回、ホテルの上の方の階に泊まり、双眼鏡で、周囲にある、マンションやホテルの部屋を覗くのだ。他人の私生活の秘密を盗み見ることは、すばらしい興奮を与えてくれるらしいのだ。今気になっている部屋がある。高級マンションに住む老人の部屋だ。老人は、車いす生活で、最初、一人の若い女が、その老人の世話をしていた。老人は、いかにも気むずかしそうに、しかめっつらで、その子に、あれこれ指図していたが、女は、実に良く、こまめに働き回っていたのだ。次に、その部屋を見たとき、老人の態度の変わり様に、びっくりしたのだ。ニコニコとしながら、実に楽しげに、女の働くのを見ているのだ。そして、一か月ほどして、また変化があった。女はもう、掃除や食事の支度はしてなかった。女は、老人の妻になっていた。部屋には、通いの手伝いらしい女が、別に来るようになっていたのだ。女は、うまく、金的を射止めたのだ。半月後に覗くと、女は、黒のドレスを着て、外出するらしかった。エリート様は、その後、ホテルのロビーのコーヒーハウスに行った。夜中というのに混んでいる。コーヒーを飲んでいると、黒いドレスの女が現れた。女は、エリート様と相席になった。女は、パーティーの帰りで、電話が来るのを待っているという。そしウエイターの呼び出し、「ご主人様から電話がはいっております」、それを聞いて、女は、崩れるように倒れてしまったのだ。なるほどね。事件の始まりです。マザコンママが、ミニバイクを乗り回します。

◆通り魔に明日はない
どこといって変わったところのない、二十八歳の会社の経理担当のサラリーマンの男が、酔って終電車で帰って来た。本来、あまりアルコールに強い方ではなかったが、決算期を迎えての、連日の残業がやっと終わって、課長が、部下たちを、ねぎらう意味で、おごってくれたのだ。かくて、いささか危ない足取りで、駅から、アパートまでの道をたどることになったのだ。駅の近くの開発がひどく遅れていて、野原や雑木林の中を抜けて行かなくてはならない。さらに、一か月ほどの間に、女性が切りつけられた、通り魔事件が、三件も起きているのだ。「女でなくてよかったよ」と、ブラブラ歩きながら、男が呟くのだ。すると背後から近づいてくる、コツコツとハイヒールのような足音に気が付いた。二十五、六の美人で、追い越していく気配だ。男は、酔った勢いで、いたずらを思いついた。女が、スッとわきを追い越して行くのを、「おい!待ちな!」と、ぐいと肩をつかむ。とたんに、アッという間もなく、天と地が逆さになり、地面に押さえつけられたのだ。囮捜査だったのだ。昭和の時代は、囮捜査は、OKだったっけ?今は、囮捜査は、かなりグレーみたいですよね。闇バイトについては、「仮装身分捜査」が、出来るようになったみたいです。男は、土下座して、見逃すように、必死に、婦人警官に、頼み込んだ。すると「あなたを信じましょう」と、婦人警官は、笑顔で見逃してくれたのだった。ところが、その後、囮の婦人警官が、何者かに、胸を刺されて、重体になってしまったのだ。大谷警部たち三人が、レストランでその話をしていると、男が、大谷警部たちのテーブルの方に駆け寄り、「お願いします!」「僕を刑事にしてください」と来た。囮の婦人警官に、見逃してもらった男だ。「あの人の笑顔に、心打たれたのです。この手で犯人を絞め殺してやらなくては」とのことだ。刑事にしろなんて、気持ちは、分かりますが。大谷警部と弓江刑事が、重体の婦人警官の様子を見に来た。命を取り止めるか、微妙な状態だ。「何とか助けてください!」と、男が勝手に付いて来たのだ。そして遂に、弓江刑事が、通り魔事件の囮になるのだ。いやー、それよりも、マザコンママの上を行く、ママが登場するのだ。「そうよ、息子がマザコンになったら、どうするのかしら」と、マザコンママに言われるくらいなんですよ!

◆寄り道にご用心
変な女子高生がいる。駅から学校に向かって歩いていたのだが、道を右へ曲がらなくてはならないのに、左に曲がってしまったのだ。引き返せば、まだ遅刻しないで間に合うのに、そのまま歩き続けたのだ。しばらく進むと、へえ、こんな所だったの!って所に出たのだ。ちょっとごみごみした通りの両側は、ズラリとホテルが並んでいた。ホテルといっても、もとろん一流ホテルではない。いわゆるラブホテルだ。一つ一つのホテルが、結構、凝った名前をつけたり、建物のデザインが、悪趣味ながら面白くて、どんどん通りを歩いて行った。すると、一軒のホテルから、一組の男女が、出て来たのだ。女の方が、紺の制服の少女で、自分と同じ制服なのだ。しかし、すぐに、もう一つの驚きが、女子高生の胸を凍りつけたのだ。一緒に出て来たのは、中年の背広姿の男で、笑いながら、制服の少女の肩を抱いている。女子高生の口から、呟きが漏れた。「パパ・・・・」その後、同じホテルで、パパと一緒に出て来た少女が、殺されたのだ。大谷警部と弓江刑事が、殺された部屋で捜査していると、若い刑事が「ホテルの裏手で、うろついている娘がいたんで、連れてきました」と、殺された少女と同じ制服の娘を連れてきた。すると、その娘が、「私、知ってるわ」と言うのだ。「犯人よ、その少女を殺した」「殺したのは、うちのパパよ」と来た。そうです、この娘は、冒頭で、道を左に曲がってしまった、女子高生なのだ。大谷警部たちが、その女子高生の家に行くと、「あなたは、自分の娘と同じ年齢の子と・・・・。恥ずかしいと思わないんですか!」「おまえの知ったことじゃない!」「妻が夫の浮気に口を出す権利がないって言うんですか!」「これには色々わけがあるんだ!」「わけがあれば、高校生の女の子とホテルへ行ってもいいと----」と、始まってしまった。今度は、弓江刑事が、殺された少女の家を訪ねると、母親は至って冷静で「死んだ者のことを、いつまで悲しんでも、戻って来るわけではありません」「それにあの子は、あやまちを犯したのですから、その報いで殺されたのです。罪はあのこにあります」と来た。昭和の親は、みんなこんな感じだったっけ? それよりも、「私もお母様と同じ意見です」と、弓江刑事は肯いて・・・・マザコンママと弓江刑事が、最近仲良くなってきているのだ。こっちが気になる!

◆幼なじみと初対面
「チェッ!」と冒頭、分かります、分かります、私も1日に、数えきれないくらい「チェッ!」の舌打ちをします。舌打ちするたび、家内に叱られますが、しかし世の中「チェッ!」のことばっかりですよね。この「チェッ!」の男、バーで飲んだ後、少々フラつく足取りで夜道を辿りながら、グチを言い続けていた。ちょっと昔の映画なんかで、よくあったように、ふと出会った男と女・・・・。ああいう「ふと」が、どうして俺には起きないんだ?畜生!世の中は不公平だ!と来た。なるほどねって思ったら、来たのだ。「あの--ちょっと、すみません」と、女性から声をかけられたのだ。しかも、スラリとした、なかなかの美人なんです。「忘れちゃったの?ほら、子供のころ、隣の家にいた・・・・」男の頭は、精一杯のスピードで回転していた。子供のころ?隣の家? 「よく遊んだじゃないの。---いやだ、全然覚えてないの?」と来た。男は、焦った。一向に思い出せないのだ。しかたなく「ああ!そうか!思い出したよ。いや---あんまりきれいになっているんで、分からなかった」と、合わせたのだ。「どっかで一杯やらない?再会を祝して!」と来た。おいおい大丈夫?詐欺じゃないの?? 一杯飲んだ後、女性が「気分が悪い」と言うので、「僕のアパートに来るかい」と、女性をアパートに連れて来たのだ。やっぱりね、二人の写真を撮られて、金を脅されるんだ。良くある手だよね。引っかかったーー、と思いきや、違いました。男が、朝、アパートで目が覚めると、女性が、隣で、裸のまま、死んでいたのだ。しかも、おかしなことに、昨日声をかけて来た女と違う女だというのだ。こんな話、誰も信じてくれませんよね。「ふざけるな!」「そんなでたらめが通じると思ってるのか!」大谷警部が一括するのだ。そこへ「努ちゃん。あんまり大きな声を出すと、喉を痛めるわよ」と、マザコンママが現れる。「---喉のアメ、いるのなら、持ってるわよ」「大丈夫!別に痛くないよ」「そう?弓江さん」「はい」「努ちゃんが咳でもしないか、よく見ていてね」「かしこまりました」と来た。弓江刑事も「努ちゃん」をめぐって、マザコンママとライバルであるが、その扱いにも大分慣れてきているのだ。事件の方はって、どうなるのでしょうか?

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