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◆〈外科〉霧の夜の忘れ物
郊外の近代的な高層マンション群に霧がでる。春の夜には、ことに霧がしばしば団地をすっぽり包むのだ。そんな霧の夜にこの団地に住む奥さんが殺された。会社からの帰りで、自分の住む棟の目と鼻の先まで来ていたのに殺された。そして、死体の下腹部が切り裂かれていたのだ。そう、霧のロンドンで発生した連続殺人事件、切り裂きジャックなのである。警察は、下腹部の切り方が、あまりにも鮮やかなため、医者か医学部出身の多少手術の心得のある人間の仕業だとふんで捜査に当たった。そして担当の警部が、「吉井医院の事件」に関係があるのではないかと突き止める。「吉井医院の事件」は、四年前に起きた医者の女房が殺された事件で、亭主を容疑者として捜査したが、今一歩のところで不起訴になった。被害者の女房の体内にナイフの刃が折れて残っていたのであるが、それに合うナイフが病院で見つからなかったのだ。そして今回下腹部を切り裂かれた奥さんが、「吉井医院の事件」の直後に、吉井医院で盲腸の手術をしていたことが分かったのだ。「彼女が何か知っていたのでもいうのか?」「四年もたって、どうして殺されるんだ?」との捜査一課長の問いに、「知らなかったんだと思います」と警部が答えた。いったいどういうことなのか? 「お前の言うことはさっぱりわからん」という捜査一課長の意見に賛成ですね。警部は、なにを考えているのでしょうか? しかし、調べたところ、吉井はもう死んでいて、病院もなくなっていたのだ。振り出しー! さて警部、どうする!
◆〈小児科〉スターのゆりかご
至って地味で、まじめな性格であり、出世の野心というものとも無縁、おそらく係長止まりで定年を迎えるのではないかと言われている、三十七歳の係長の話だ。妻は三十二歳で、五歳の娘がいる。妻は、結婚するときに、夫が三十前にしては悠然と落ち着いていて、どことなく頼もしく、将来の大物だと見えたらしいが、それが錯覚だったと気付いたときは手遅れであったのだ。将来の幹部候補生という夢は、せめて課長になってほしいに後退していた。そんな時、五歳の娘が、デパートのおもちゃ売り場の人形と遊んでいると、その人形のTV用のCM出演しないかと、妻が声をかけられた。すぐに撮影は終わるし、多少の謝礼も出すとのことで、妻は承知したのだ。そして、本当にTVのCMに娘が登場して、妻はびっくりした。そして、TVでCMが流れ出してから一週間ほどして、あるTV局が、ドラマの子役に娘を使いたいと言ってきたのだ。そして、ドラマの放送が始まると、娘の天衣無縫とでもいうべき自然な演技が話題をさらったのだ。他の番組からの出演依頼も、たちまち五、六件入り、天才子役の道を歩むことになる。むかしから天才子役っていますよね。妻は、マネージャー気取りで、娘に付きっきりになる。夫は「娘の芸能界への深入りは良くない」と、妻に言うのであるが、聞き耳持たずだ。夫の会社でも、最初は「お嬢ちゃん、頑張っているね」だったが、そのうち「子供に働かせていい気なもんだ」に変わって行った。そして事件は起きた。会社に、「うちの娘が出演するはずだったドラマの役を、あんたの娘がかっぱらった」「女房をディレクターに提供して役を取れせている」と母親が怒鳴り込んで来たのだ。夫は、部長に呼ばれ、辞職をほのめかされる。さあどうする? こういうことって本当にあるじゃないかと思いますよね。
◆〈眼科〉美しい闇
ガード下で若い女が男に殺された。ガードの入口に女性がいた。男は見られたと思ったが、女性は白い杖を握っている。そう目が不自由なのだ。女性がこちらに向かってコツコツと歩いてくる。男も女性に向かって歩いてすれ違った。男がガードの出口で立ち止まって振り向いた。コツコツという杖の音が止まったのだ。女性は、壁ぎわに死んでいる女の前で足を止めていた。何か気配を感じたのだろう。しばらく立ち止まって、ちょっと小首をかしげていたが、やがてまた、コツコツと歩いて行った。そして、目も不自由な女性は、角膜移植の手術を受けた。執刀したのは、総合病院で一番の角膜移植の腕前を持つ三十一歳の先生だ。先生は、院長のお気に入りで、ゆくゆくは、院長の一人娘と結婚し、院長の地位を継ぐと言われていた。しかし、先生は、この目の不自由の女性と恋に落ちていた。そして、手術は成功し、女性は、目が見えるようになった。そこへ刑事が現れた。ガード下での殺人事件を捜査していて、三人の男に容疑がかかったが、決め手がない。そこへ、殺人があった時刻に、目が不自由であった女性が、カード下を通ったことを突き止め話を聞きに来たのだ。女性は、確かにガード下を通り、男とすれ違ったことを話した。そして、容疑がかかった男と面通しをすることになったのだ。目が見えなくても、歩く靴の音や息遣いで、人を見分けることができるらしい。面通しは、事件があったガード下で行われた。女性は、目隠しをして、三人の容疑者の一人一人とすれ違うのだ。心配した先生も面通しに立ち会った。三人のうち一番似ている男がいたが、ピタリとはまるとまでではなかった。そして、目隠しを取ろうとしたときに全員が集まってきたのであるが、思わず息を呑んだ。犯人とそっくりな息遣いを感じたのだ。さてどういうことなのでしょうか?
◆〈精神科〉殺人狂団地
若い夫婦が、当選した公団の分譲住宅を見に行った。その一角全体が、新たに開発された土地で、周囲には山林も残り、自然環境は良かった。そこにタウンハウスと呼ばれる、二棟ごとにくっついた建物が並んでいる。団地とはいえ、高層でないし、狭いながらも庭がついていて、一戸建てのような感覚があるので、人気は高かった。車での帰り道、雨が降っている。昼頃から少し降り出していた雨は、すっかりこの時間には本降りになっていた。そんな雨の中、黒い人影が、しきりに手を振っているのに出くわした。車が故障して往生していたのだ。「電話がある所まで乗せてくれ」と言うので、男を乗せた。しかしなんとこの男、警官を殺害し逃げるところだったのだ。残念なことに、この若い夫婦も殺されてしまうのだ。翌日、この団地の引っ越しラッシュになる。そんな中、一人で引っ越しをしている奥さんがいた。旦那は出張が多く、今日も出張なのだ。その日の夜、集会場に引っ越してきた面々が集まった。引っ越しのお祝いを皆でやろうというのだ。奥さんは、入居説明会で、一緒だった若い夫婦を捜したが見つからない。絶対、初日に入居するわ、と頑張っていたのに、おかしい。そして、お隣さんの男と話をした。四十歳ぐらいの男で、人当たりの柔らかい、好感の持てる男だ。妻は病気で入院しているとのことだった。主張が多い旦那の妻、妻が入院している男が、お隣同士。やばいだろう。翌日、布団を干して、スーパーに買い物に行った。お約束通り、帰り道雲行きが怪しくなる。急いで帰るが、降り出した。家に着くと布団がない。隣の男が取り込んで乾燥機にかけてくれていた。こうして仲良くなるのであるが、近所の噂になるのだ。当たり前だよね。ところで、殺人事件は、どうなったの??
◆〈産婦人科〉見知らぬ我が子
そろそろ五十に手が届く年齢で、作家としてはそう高齢でもないが、書き始めたのが、やっと三十になった頃から、もう二十年近く、作家生活を続けている作家の話だ。そう注目を浴びることもないが、小説好きの間には、根強いファンを持っていて、書くペースも、本の売れ行きも安定していた。作家は、一人暮らしで、家のことは、若いお手伝いの女がやってくれている。そんな作家に、子供連れの女が訪ねてきた。女は、三十五、六というところか、色白で、特別美人というわけではないが、まずまずの顔立ちをしている。子供は、七、八歳の可愛い女の子で、二人ともこぎれいな格好をしていた。そして、お約束通り女は、その女の子が、作家の子であると言うのだ。作家は、何の心当たりもない。同業者から、時々こうした女に押しかけられて閉口した話を聞いたが、我が身に起こるとは思っていなかった。女は、ある劇場で作家に出会い、劇が終わったあとに、フランス料理店で食事をし、その後ホテルに行ったと言っている。確かに、劇場には二、三度足を運んだことがあり、フランス料理店も行きつけの店であるが、三年前にオープンしたばかりで、女は、明らかに嘘をついている。作り話にしても、あまりにありふれている。およそ知能犯とは思えない。それは、逆に作家の興味を珍しくそそったのだ。三人は、実際に劇場に行き、フランス料理店で食事をした。実証見分なのだ。そして、フランス料理店で、同業者に合った。その同業者を見て、女が青ざめたのだ。女は、同業者に、同じように言い寄ったらしいのだ。作家が、支払いを済ませ店を出ると、女と子供の姿は、なくなっていた。その後、同業者が店を出たところで、何者かに刺される事件が発生する。女の仕業か? その後、なんだかんだがあって、作家は、女に取り込まれてしまうのだ。女は怖いね! 今でもこんな話は、そこら中にころがっているのでしょうね。え、私??
◆〈放射線科〉残された日々
十六歳の娘が、ガンで余命三か月と告げられた。「実は、レントゲン写真を、他の患者のと間違えてしまいましてね。お嬢さんはまったく異常なしです。本当に、こちらの手違いで、申し訳ありません・・・」との電話か来る夢を何度見たことか。病院も、そんな馬鹿げた間違いはしないに決まっているし、娘の容態からして、入院して、あらゆる治療を試みても、三か月先の死を、せいぜい一か月かそこら、先にのばすだけしかないことも、厳然たる事実なのだ。それでも入院することにしたのであるが、娘が家出した。娘は、三か月の余命を知っていて、病院で過ごすよりも、好きなように過ごしたいとのことである。娘は、海に近い駅で、「ねえ、おじさん、一人?」と、おじさんに声をかけた。こんな若い娘に「一人?」なんて声をかけられたら、おじさん、その気になっちゃうよね。別に娘はそんな気があるのではなく、ホテルに泊まるのに一人では、断れそうなので、一緒に部屋を取ってほしいだけであるが、まあ、結局一緒か? おじさんは、こういう道連れがいると、目立たなくて済むかもしれないと、引き受けたのだ。このおじさん、何と会社の金を盗んで、弾みで警備員を殺して、逃げているところなのだ。そして、ホテルに泊まり、二人で海辺などを散歩して過ごすのであるが、ホテルに警官が現れる。この町は、おじさんがむかし住んでいたのだ。手配されるよね。何でもっと見知らぬ町へ逃げないのか?まあ、しかたない。娘の機転で、何とか警官の追及から切り抜けたのであるが、時間の問題だ。さてどうする、おじさんと娘? まあ、最後のどんでん返しには、驚きました。
◆〈法医学教室〉明日殺された男
法医学の権威にして、これまでに検死解剖した死体が五千を越えるという教授に、死体がやって来た。それまでの長い経験上も例のない、珍しい死体だった。「先生、お客様ですが」秘書が、何だか戸惑ったような表情を見せていた。「どなたかね?」「それが・・・・・」と秘書は言葉を切った。秘書が、こんな風に、対応に戸惑うのは珍しい。何か、厄介な客かもしれない。秘書に促されて入って来た客は、一見したところ、別に変わっている様子には思えなかった。四十前後か、ちょっとした企業の課長クラスというタイプだった。ちょっと妙なことと言えば、なぜかネクタイをしていないことだ。今は、ネクタイしないのが当たり前なのに、ネクタイをしないと、妙に見えりとは、昭和だよね。それより、「私は殺されたんです」「それで、ぜひ先生に、検死解剖をお願いしたいと思いまして」アフリカの土人が猛獣を殺すときに使う毒を盛らされて、その毒は、現在の医学では絶対に検出できないものだという。そこで、先生に、何とかしてほしいと依頼に来たのだ。そう言って男は帰って行った。その翌日、先生は警部から検死の呼び出しがあった。見た目は、自然死に見えるが、検死は、先生にやってほしいとの手紙を持っていたとのことだ。昨日尋ねてきた男が、本当に死んだのだ。そして、「私が、男を殺した」と、殺された男の前妻が、先生のところを尋ねてきた。前妻は、金持ちの魔術とか降霊術に凝っていて、前夫のネクタイに呪いをかけて殺したというのだ。先生は、前妻を、追い立てるようにして、返した。前妻は、自分の呪いが通じたと、自慢しに来たのだ。そんなはずはないと先生は追い返したのだ。アフリカの土人の毒や呪いなど言っているが、男は本当に死んだのだよ。「法医学の権威の先生、早く死因を教えてください!」って感じか?
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