逃げこんだ花嫁(角川書店)

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◆逃げこんだ花嫁
亜由美が、同じ私立大学の男女それぞれ二人ずつで、夏休みに小さな温泉宿に、車で向かった。ところが、山道で、猛烈な濃霧に襲われ進めなくなり、狭い車内で一夜を明かすことになった。夏とはいえ、山の中だ。夜はひんやりと肌寒いほど気温が下がり、狭い車の中も、決して寝苦しくはなかった。「もう朝よ。すっかり霧も晴れている!」亜由美と聡子は、車から、外へ出てみたが・・・・。「キャッ!」と、聡子が変な声を上げた。「どうしたの?」車の反対側へ降りていた亜由美が、車の後ろを回って行くと、「危ないよ!亜由美、足下---」「え?」聡子の言葉で、目を下に向け、亜由美は仰天した。車は、道のわきへ寄って停まっていたのだが、あと二メートルも「わきへ寄って」いたら、崖から落ちているところだったのだ。「こんな所で眠ってたんだ・・・・」と、呟くと、聡子は、ヘナヘナと座り込んでしまった。正に「知らぬが仏」という奴である。すると、崖からヌッと男の顔が出て来て、「キャッ!」二人は同時に叫んで飛び上った。「何だ、女だぜ」と、その男が言った。「女?」もう一つ、男が顔を出す。---二人の男は、崖をよじ上がって来たらしい。「あ、あの---何でしょう?」いつもの亜由美らしからぬ(?)ていねいな口をきいたのは、二人の男の内、一人は日本刀、一人はバットを持っていて、ねじりはち巻、作業服といういでたちだったからである。「亜由美---」と、聡子が亜由美の後ろに隠れてしまう。「何よ、だらしないんだから!」とは言いながら、亜由美だって怖いのである。「何やってんだ、お前たち?」と、男の一人が、あまり友好的とは言いかねる目つきで、二人をにらみながら、言った。「道に迷ったんです、霧で」と、亜由美が答える。「で、車の中で夜明かしして・・・・」「何だ、男もいるぜ」と、一人が車の中を覗き込む。・・・「どこから来たんだ?」「東京からです」と、亜由美は言った。・・・「この狭苦しい車で四人か。さぞ窮屈だったろう」「外で寝るよりいいですから」「乱交パーティーってやつか」と、バットを持った男がへへ、と笑った。亜由美には、腹が立つと怖さを忘れるという、悪いくせがある。「そういう下品な想像しかできないんですか」と、男たちをにらんで、言い放った。「ほう!言ってくれるじゃねえか」と、日本刀をヒュッと振って、「こいつで裸にむいてやったてもいいんだぜ」亜由美とて、斬られるのは好きでない。しかし、こういう男を見ると頭に来てしまうのである。「やれるもんなら、やってごらんなさいよ!」と、見得を切った。「亜由美、よしなよ」と、聡子がつついたが、もう止められない。・・・・ピンーーーチ!さて運命は?

◆花嫁学校の始業式
「春休み。ああ、春休み、春休み」と、亜由美は踊ってみせた。あれ?前作は、夏だったのに、もう春か?時の流れは、早いですね?「これ、学生証よ」と、亜由美の母の清美がピンクのカードを亜由美に渡した。「ちゃんと真面目に通ってね」「学生証?学生証は新学期になってから・・・・。大体、何よ、この趣味の悪いピンクのカード?」亜由美は起き上がって、読んでみた。「〈ABZブライダル・スクール〉?---何なのこれ?」「結婚準備中の女性のための学校よ」亜由美は目をパチクリさせて、「これ---どうして私に?」「あんたが入学しているからよ」亜由美は唖然とした。「ちょっと!私、こんなのに入った覚え、ないわよ」「私が申し込んだの」と、清美は澄ましている。「あなたは忙しそうだったから、代わりにね」「こんなもの、入らないわよ」「入ったんだから、仕方ないでしょ。それとも、十万円、ふいにするつもり?」「十・・・・万円?」亜由美は信じられない思いで、「こんなものに---お母さん、十万円も払ったの?」「一生の幸せが十万円で手に入れば、安いもんです。---これ、向うの係の人が言ってたのよ」清美は、ドアを開けると、「どうせ春休み、やることなくて暇だと言ってたでしょ?明日からだから、ちゃんと通ってね」と言って、出て行った。・・・・亜由美は、十万円がもったいない、と、ただそれだけの理由で、朝十時に、この都心の超高層ビルへやって来たのだ。そして、ブライダル・スクールの昼休み、「聡子!」神田聡子が、ちょっと照れたような顔で立っている。「昨日帰ってね、母にこの話をしたら、電話して申し込んじゃったの」・・・聡子と一緒に歩きだしたとき、受付の声が耳に入ったのである。「---男の方は入れないんですよ」「男ではいろうってのがいるみたいね」と、聡子が言った。「物好きね。---結構、いい年齢よ」亜由美は、その地味な背広の後姿を見て、はて、どこかで見たような、と思った。「そこを何とかならんかね」と、男が言った。あの声・・・・。亜由美は、近付いて行って、「失礼ですけど」と、声をかけた。その男が振り向いて、目を丸くした。「やあ、これは---」「徳永さん!やっぱり!」・・・・。恋人とデートした帰り、背中を刺されて、男が殺された。殺された男の恋人が、どうもこのブライダル・スクールに通っているらしいとの情報で、殿永刑事が、探りにきたのだ。偶然ってあるんですね。もちろん、亜由美と聡子が、ブライダル・スクール内を調査することになるのだ。いやー、亜由美のお母さん、面白いですが、時々出て来る亜由美のお父さんも、結構面白いです。

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