吸血鬼が祈った日(集英社)

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◆吸血鬼が祈った日
「---何ですって?」エリカは唖然とした。「じゃ、あなたのお母さん、全財産を、あの教団に?」「そうなんです」エリカと同じ大学の後輩の女子大生は、肩を落として、「いくら言っても、だめなんですよ。もう他のことは頭にないみたいで・・・・」「ひどい話ね」と、千代子が憤然として、「警察に届けたら?」「行ってみました。でも---自主的に寄付をしているんだから、取り締まるわけにはいかないって」それはそうかもしれない。逆に宗教がそう簡単に取り締まられるようになっては困ってしまう。「いつごろからなの?」「ええ・・・・」女子大生は、少し考えてから、「今思うと、たぶん---一年ぐらい前、母が入院したころからだと思います」「お母さんが入院?」エリカが意外な気がした。「知らなかったわ。どこが悪くて?」「いえ・・・・。母、お酒を飲み始めたんです。---軽い中毒みたいになって」「まあ」「気の毒ね」と、みどりが首を振って、「どうせなら、ケーキの中毒になれば、太るぐらいで済むのに」「父が、一年で帰るはずだったのに、ずっとのびのびになって。それも原因だと思います」「なるほどね」「で、その入院中に、あの教団のことを知ったらしいんです」・・・・・「すぐに、というわけではありませんでした。母も、退院したときは、元の通りになっていて、アルコールも絶ち、そんな教団の話をしてくれましたけど、入るなんて気はなかったようです」「じゃ、何がきっかけで?」「教祖です」「あの男が、母に会ったんです。---その日から、母は変わってしまいました・・・・」女子大生は、深々と、ため息をついた。いやー、今裁判なんかををやっている大事件、昭和の時代から、同じようなことがあったんですね。宗教って、どうなんですかね?確かに、宗教で救われる人もいると思いますが・・・・。「気の毒ねえ」涼子が、夕食の支度をしながら言った。「何とかならないのかしら」「でも、法律に触れてないから、どうにもならないんですって」「それにしたって・・・・ねえ、あなた」・・・・「おまえたちの気持ちはよく分かる。しかし、こういうことは、それこそ個人の問題だ。たとえ全財産を投げ出したとしても、それで当人が満足しているのなら、それに他人が口を出すわけにはいかん」「まあ!」と、涼子はキッと目をつり上げて、「あなたがそんなに冷たい人だなんて。---分かりました」「長い間お世話になりました」・・・・夫婦ケンカが、始まった。どうなる?そんなことは置いといて。しばらくして、女子大生からエリカに電話が来た。「長い間、どうもありがとう」・・・・。やばー!エリカどうする?
『シリーズ登場人物』

◆吸血鬼を包囲しろ
「どうするの、エリカ?」「今はどうにもならないわよ。ともかく、明るくなるのを待って、なんとかここから脱出しないと」「それまで見つからずに済むかしら?」「どうかしらね。---祈るしかないわ」エリカは、埃の匂いの漂う、じめじめした廃屋の中を見回した。もちろん、吸血鬼の血を引く神代エリカの目は並の人間とは違うので、この暗がりの中でも、ある程度見通せる。しかし、一緒にいる大月千代子と橋口みどりのふたりは普通の人間だ。この闇夜の中へ出ていけば、とても歩けないだろう。何しろ深い山奥である。いたる所に崖もあるし、谷川の流れもある。転落したら、命を落としかねないのだ。「でもさ・・・・」と、千代子がため息をついた。「何で私たちがこんな目に遭わなきゃならないわけ?」エリカも、その点では申し訳ないと思っていた。自分のせいで、千代子もみどりも、とんでもない思いをさせることになってしまった。・・・・・。「---しっ!」と、ふたりを抑えた。「どうしたの?」「黙って」エリカは、耳に神経を集中させた。---聴覚も人間以上のものを持っているのだ。何か聞こえる。---人の声。何を言っているのか分からないが。それに、何か、枝がメリメリと折れる音。重い物がズシン、と置かれるような振動・・・・。「---何なの、あれ?」みどりも、振動は感じたらしい。「起きて、みどり、千代子、ここにいるのを知られたらしいわ」・・・「ともかく、ここを出ましょう。ふたりとも、私についてきて、足元に気をつけてね」エリカは、廃屋の中を、そっと歩いて、出口の方へと向かった。そして、エリカが、戸口の、動きの悪い戸を、力を込めて開ける。「行くわよ」と、エリカは後ろのふたりに言った。「あの、少し明るく見えるほうへ向かって行きましょ」エリカが歩きだしたときだった。---足元に、振動が伝わってきた。「何かしら?」千代子が立ちすくむ。ゴーッという唸り。それが迫ってくる。バリバリと板や木を裂く音。「走って!」エリカが叫んだ。「岩が落ちてくる!」三人が隠れていた廃屋へと、巨大な岩が突っ込んできた。壁が砕け、柱が折れる。「下敷きになったら終わりよ!走れ!」三人は、林の中へと、めちゃくちゃに駆け込んだ。エリカは、ふたりに、「左右へ散って!」と怒鳴った。それが---最後だった。突然、足元の地面がなくなってしまったのだ。アッと声を上げる間もなかった。明るく見えたのは、ただの空間だったのだ。そこから急な崖が落ち込んでいたのである。エリカは急な斜面を転がり落ちていった。終わった?いったい、エリカたち三人に、何が起きたのだ??

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