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◆暑さ寒さもひがんでいる
「真弓さん!事件です!」・・・・「殺されたのは、誰ですって?」「役者です。きっとその辺の小さな劇団にでも入っているんでしょう」「それ、もしかして、急に人気の出て来た若い人じゃないの?ほら、朝の連続TVドラマで」・・・事件現場に向かうパトカーでの、道田刑事と真弓の会話だ。現場に着き、パトカーを降りて、真弓は戸惑った。---そこは、どこだかのプレハブ住宅メーカーの研究所前だった。役者がどうして、こんな所で殺されるんだろう?「---現場は?」「こちらです。ご案内します」と、警官が先に立って歩いて行く。四角い建物が立ち並ぶ間を抜けて行くと、背の高い、一見、飛行機の格納庫みたいな建物が目に入った。「---あ、矢島さん」と、真弓は、顔なじみの検視官の姿を見つけて、声をかけた。「何だ、若奥さんの出馬か」「もう死体を?」「---あんまり面白いもんじゃないな。男の裸では」「まあ、裸なんですか?」「パンツははいとるがな」その建物の片隅の小さなドアから中へ入った真弓は、「まあ!」と、思わず声を上げたまま、足を止めた。「---これ、何なの?」真弓が目をパチクリさせたのも道理で、そこには一軒の家が---二階建ての、完全な家が、建っていたのである。「ここは耐久性実験室です」「天井や周囲にパイプなんかが通っておりますでしょう?あれを使って、雨や雪、四十度の猛暑から、零下三十度の酷寒の状態まで、ここで作り出すことができます」と、販売課の男が言った。「この裏側には、巨大な扇風機が三基、備えたありまして、風速六十メートルの台風も再現できます」「へえ、大したもんですね」真弓は感心してから、ハッと我に返り、「現場は?ここ、殺人現場なんでしょ?」---現場はその「家」の中だった。プレハブといっても、昔のような「急ごしらえ」のイメージとは程遠く、がっちりとしていて、モダンな住宅である。玄関から上がって、真弓は、中がちゃんと普通の住宅のように、内装も施され、家具まで、なかなかいいものが置いてあるのに感心した。死体は、居間の真中にあった。パンツ一枚という格好で、仰向けに倒れていたが、見たところ、外傷らしいものもないようだった。「この人、死因は?」「うむ、---どうやら心臓発作らしいぞ」「心臓?じゃ、殺人じゃないんですか?」「誰かが無理に心臓を止めてやりゃ、立派な人殺しだろ」・・・・。どういうことなのか?耐久性実験室の家の中で、役者がパンツ一枚で、心臓発作を起こすとは?・・・。名泥棒の淳一が、まだ出てきていないが、今回は、どんな活躍をするのでしょうか?
『シリーズ登場人物』
◆朱に交わればシロくなる
「変だな・・・・」今野淳一は、首をひねった。帰宅して、玄関に入ったとたん、どこかおかしい、と思ったのである。もちろん、言うまでもなく淳一は人間国宝級の---といっても、誰も推薦してくれないだろうが、泥棒であり、その意味で、自宅に入ったとき、ワッと刑事が飛び出して来るということも、考えられないわけではない。淳一は、油断なく、気配をうかがいながら上がりこんだが・・・・。「ワッ!」と、刑事が飛び出して来て淳一に飛びかかった。「おい---何だよ!何やって・・・・」淳一と刑事は、床の上でもみあっていたが---やがて静かになった。淳一の手首にガチャリと手錠がかけられたわけでもなく、刑事がやられて息絶えた、わけでもない。何しろ、飛びかかって来たのは、刑事とはいっても、淳一の女房、真弓だったからである。いつもいつもこの二人、じゃれ合っているんですよね。それはさておき、今回は、真弓の遠い親戚の女の子を、東京の高校の受験があるため、預かることになった話だ。親戚の女の子が訪ねてきた。「あの---荷物は?」「玄関の上り口に。あ、いいですよ。真弓おばさん。後で、自分で運びますから」真弓は、愕然とした。翌日、道田刑事は、どうも仕事が手につかなかった。「真弓さん」と、道田刑事は、ついに意を決して、席を立つと、いやにボンヤリと座り込んでいる真弓の方へやって来た。「真弓さん」「---ああ、道田君」と、真弓は、てんで気のない様子。「あの---どうかしたんですか?」「どうかした、って---誰が?」「いえ・・・真弓さん、何だかお疲れのように見えたんで」「そりゃそうよ。もトシですからね」「え?」「私はもうおばさんなのよ。老人なの。道田君も、もっと若い人と組めば?こんなお婆さんと組んだって面白くないでしょ」あの、親戚の子の『真弓おばさん』の一言が、まだ応えていて、立ち直れないのである。気持ちは、分かりますがね。そんなに凹むもんなんですかね、『おばさん』。これもさておき、事件です。中学三年生の男の子が、殺されたのだ。真弓が、道田刑事と、殺人現場のマンションに来た。「---やあ、若奥さん」検視官の矢島だ。「もう若くありません」・・・まだ言っている。真弓が、マンションの部屋で捜査していると。「真弓さん」と道田刑事が顔を出した。「この子の友だちっていうのが来ているんですが」「そう。行くわ」・・・。「あら、真弓おばさん。こんな所に---」「おいおい」「その『おばさん』はよせよ、って言っただろう」何と、現れたのは、預かった親戚の女の子と、淳一なのだ。さて、どうなるのでしょうか?
◆迷子と泥棒には勝てぬ
真弓、淳一、道田刑事の三人で、デパートに買い物に来た。道田刑事が、荷物持ちだ。そして、一通り買い物を済ませ、昼食を取ることにした。デパートの最上階のレストランは、平日というのに、ほぼ満席だった。「世の中にゃ、暇な奴が多いんだな」淳一は、やっと空いたテーブルについて、周囲を見回しながら言った。「聞こえるわよ」と、真弓は笑いながらメニューを広げた。一方、道田刑事は、といえば、買った荷物を、空いた椅子の上に、いかにして崩れないように積むか、必死の努力を続けている。しかし、まあ---それも何とかなって、取りあえず三人は食事にありつけることになったのである。「もう、ママは知りません!」甲高い声に、真弓は思わず振り向いた。真弓の、ちょうどすぐ後ろの、小さなテーブルの親子だった。母親と、女の子。母親の方は、たぶんまだ三十そこそこなのだろうが、暮らし向きが楽でないのか、大分くたびれ切った様子で、四十過ぎに見える。子供の方は、五、六歳か、それとももう少し行っているのかもしれない。母親の子にふさわしく(?)ちょっと時代遅れのデザインのワンピース。「ここに一人でいらっしゃい!ママは帰りますからね!」何を怒っているのか、母親は、紙袋を手に立ち上がった。「いいもん」と、女の子は平気な顔で「リカ、一人でいるもん」「じゃ、勝手にしなさい!」母親は言い捨てて、足早に食堂を出て行ってしまった。残った女の子は、いとものんびりと、まだ食べかけだったアイスクリームを、食べ始めた。・・・・「---ご苦労さま。悪かったわね、道田君」車を駅の前につけ、道田刑事を降ろした。「夕飯でもおごってやりゃ良かったじゃないか」と、淳一はハンドルを握りながら言った。「あら、私、早くあなたと二人きりになりたかったのよ。いけない?」と、淳一の方へ甘えて身をすり寄せる。「おい---危ないぜ。運転中だ」「じゃ、運転の方を中断して」淳一は、ため息をついて、車を、わきへ寄せた。あまり人の通らない公園沿いの道である。・・・・「ウーン・・・・」---二人は、顔を離した。「変な声、出さないでよ」「俺何も言わないぜ」「でも、今、唸ったでしょ」「ここじゃない。どこか他の所から聞こえて来たんだ」「どこから?」と、そこへ---。「ママ・・・・」淳一は、「トランクだ」と言った。急いで外へ出ると、後ろに回って、トランクを開ける。「---まあ」真弓は目を見開いた。トランクには、道田刑事がかかえていた荷物を全部詰め込んであったのだが、その中に埋もれるようにして、女の子が一人、座っていた。「これ・・・・」「あの、食堂にいた子らしいな」・・・・。この子、すご!刑事と泥棒の車に、忍び込むとは!!さて、どうなることやら?
◆星に願いを
三十年前にハリウッドでスターだった女性が、日本を訪れることになった。そのスターが、日本の映画人たちとパティーを開くことになり、真弓と道田刑事が、護衛に当たることになった。もちろん(何で)淳一も一緒だ。どうしてもスターに会いたいって、男の電話が大分前から、かかっていて、警視庁に、護衛の依頼が来たとのことだ。パーティに出て、真弓は大喜びだ。何しろ、客はほとんどが映画人。監督とかプロデューサーもいるが、スターが大勢来ているのだ。ホテルの大広間を使った、豪華なパーティで、三百人ぐらいいるのだ。「---みなさん!」馬鹿でかい声のアナウンスが広間に響きわたる。「お待たせしました。我らのスターの登場です!」「行けよ」と、淳一は、真弓をつついた。「でも、どこにいるの?」「あのライトだ」スポットライトが、会場を走り、広間の入り口を照らすと、そこに、純白のドレスに身を包んだ、輝くようなブロンドの美女が立っていた。喚声と、ため息。---そして割れんばかりの拍手。「大したもんだ」と、淳一が、首を振った。「もう六十歳を越しているんだぜ」「信じられないわ!」と、真弓も目を丸くして、「十代に見える!」「オーバーだ。---おい、そばへ行ってろよ」「あ、そうね」「頼りねえ刑事だな」真弓は、人をかき分け、進んでいった。スターが、ライトの中を進み出ると、両手を高々と上げた。ワーッと喚声が起こる。真弓が、やっと人垣を分けて前に出たのは、この時だった。スターが入って来たドアは、開いたままになっていた。そこから---突然、男が一人、飛び込んで来たのである。汚れた上着とズボン、髪をふり乱したその男は、ナイフを手に、背中を向けているスターに向かって、突っ込んでいった。真弓も、一応は刑事である。こういうときのために、訓練しているのだ。駆けつけても間に合わない!真弓は、バックから小型の拳銃を取り出した。構えて、引金を引く。---0.何秒かの差だったろう。足を狙ったつもりだった。しかし、男は、胸を押さえて、ドッと前のめりに倒れたのだ。---騒ぎが起こるまで、何秒か、沈黙があった。ガードマンが、スターをかばって、素早く広間から連れ出す。続く大混乱の中で、真弓は、ただぼんやりと、自分が射殺した男を見下ろして立っていた・・・・。おーやった真弓、むかしはちょくちょくぶっぱなしていたが、最近やらないなと思っていたら、やりましたね。さて、男の目的は、何だったのでしょうか?
◆ジャックと桃の木
「道田です!お迎えに来ました」真弓の部下の、若き道田刑事の、元気な声が響き渡った。真弓にほのかに思いを寄せている道田としては、事件が起きると、真弓に会えるので、張り切ってしまうのである。「ちょっと!」ネグリジェにガウンをはおった真弓は、あわててドアを開けたのだ。「まだ、近所は寝ている時間よ。そんな大声出す人がありますか!」「す、すみません」と、道田刑事は頭をかいて、「---あの、お支度は?」「支度って、何の?」「その格好で殺人現場へ?ま、僕は構いませんけど・・・・」「殺人?」そうか、そういえば、何だか夢うつつの中で、事件が起こったとか聞いたような気もするわ・・・・。「あの---さっき、電話で---」「そう!もちろんそうよ。分かっているの。すぐ支度するつもりだったんだけど、主人が帰ってきちゃったもんでね。その---ちょっと---分かるでしょ?」道田刑事は赤くなって、「は、はあ」と、うつむいてしまう。「そりゃ、公務員だから、職務を優先させる・・・・」「おいおい」と、淳一が呆れた顔で出て来ると、「そんな話より、急いで支度しろよ」真弓が奥へ飛び込んで行く。「あの・・・・お邪魔しちゃったんでしょうか、僕?」と、道田刑事が恐る恐る訊いた。「なに、それくらいのことで僕たちの愛は、壊れやしないさ」淳一は澄ました顔でそう言うと、「ところで、殺人事件かい?」「そうらしいんですがね」「よくわからない、変な事件なんです」「どんな風に?」と、淳一が訊いた。淳一は別に刑事でも探偵でもない、ごく平凡な泥棒(!)だが、やはり商売柄、犯罪には興味があるのだ。「誰かが、家を踏み潰したらしいんです。それで、寝ていた人が下敷きになって---」「おい、ちょっと待ってくれ」「家を踏み潰したって?」「そうらしいです。まだ直接見ていないんですけど・・・・」「そりゃ人形のお家かなんかかい?それとも---」「ちゃんと人間の住んでいる家です」「普通、そんなものは踏み潰せないぜ」「そうですね。でも、ちゃんと靴が残っていたそうですから」「馬鹿でかい靴が、現場に残っていたそうなんで・・・・」「妙な話でしょ。二メートルもあるっていうんですよ。誰がそんなもの、はくんでしょうね」「決まっているさ」「『ジャックと豆の木』の巨人だよ」・・・・・・。「こりゃひどい」家の一角が、完全に潰れてしまっていた。二階のベランダが真中から押し潰されたように、一階までボコッと空間ができてしまっている。正に。巨人がつい間違って踏んじゃった、という様子なのだ。押し潰された部屋。壁も崩れ、屋根も落ちて、ひどい有様だが、その上に、チョコンと---いや、ドカッとのっているのは、巨大な靴だった・・・・。いったい何が起こったのでしょうか?


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