【広告】スポンサーリンク |
中々面白い話でした。中規模の商事会社の庶務課の男が、アイドルの追っかけに巻き込まれる。この男、二十九歳だが、たいていの場合、「三十代半ば」に見られている。中肉中背、足も長くなく、短くもなく、色も黒からず白からず、地味なグレーの背広---少しくたびれている---を着ていれば、老けて見えても仕方ないのだ。この男が、アイドルのコンサートが終わって、ゾロゾロとコンサートホールから駅に向かうファンの人ごみにもまれて歩くのを避けるために、ホールの建物のわきを回って、裏側に抜ける道を進んだ。そして、ホールの裏口の方へ出て、ギョッとして足を止めた。いつもなら、人気が無くて閑散としている場所なのに、数十人の男の子が集まっていたのである。どうやら、この男の子たちは特に熱狂的なファンで、そのアイドル歌手の出て来るのを待っているらしいのだ。男は、その男の子たちの後ろを抜けて行こうとすると、「すみません。ちょっと待ってください」「トラックが入るんで」と、作業着の男が前に立った。男はわきにどいて、トラックが楽屋口の前に寄せるのを見ていた。ステージで使ったのか、小道具類を運び出し、トラックに積み、運び出そうとした。すると、「あのトラックだ!」「衣装ケースの中にいるぞ!」と、男の子たちが、ワッと駆け出したのだ。トラックの運転手も焦ったのか、急に車体が道へせり出した。そこへ、反対の方向から、乗用車が走ってきて、トラックにぶつかり、トラックが、横倒しになったのだ。男の子たちは、一斉にあちことに逃げ出した。男は、あわててわきによけたが、誰かがつまずいたのか、転倒し、たちまち五人、十人ともつれ合ってひっくり返る。一人の女の子が、よろけて男にぶつかり、その子とひっくり返った。女の子が、右腕を押さえていた。男は、女の子をホテルに連れて行き、フロントで事情を説明し、傷の手当てをしてもらい、タクシーに乗せて、二千円ほど持たせた。女の子は、お金を持っていなかったのだ。しばらくして、女の子から男の会社に電話があり、お礼にと、高級レストランでの食事に誘われた。そして、アイドルのコンサートチケットを渡されたのだ。男は、仕方なく、コンサートに出かけてみると、なんと、助けた女の子が、そのアイドルだったのだ。そして、そのアイドルが、「私の愛する人は、あそこにいます。照明さん、K列の20番の席を照らしてください!」と来た。なんと、スポットライトが、男を照らしたのだ。生のコンサートで、アイドルに、愛の告白をされたのだ。『棚から落ちて来た天使』ね!さて、この男、どうなってしまうのでしょうか?
コメント