真実の瞬間(新潮社)

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「真実の瞬間」は、気持ちはわかりますが、切ない話です。ある電機メーカーの取締役の男が、話があると家族を集めた。男が勤める電機メーカーは、大事業ともいえないが、業界ではよく知られ、信頼されるメーカーだ。ほんの町工場だった会社を、男がここまでにしたのである。本来なら社長になってもおかしくないが、元来技術畑の男は、経営には気苦労ばかり多いからと、その地位を断っている。集まったのは、男の妻、長女と大蔵省に勤めるエリートの旦那、長男、結婚して新婚旅行から帰ったばかりの次女とその旦那の七人だ。父の話は、なんと「私は人を殺した」だった。二十年前に、父を嫌っていた副社長が、父の愛人を殺し、父が副社長を殺したというのだ。そして、副社長の方は、繁華街の喧嘩によるものと片付けられたが、愛人の方は、失業中でギャンブルで身を持ち崩した男が逮捕された。愛人のマンションの近くをふらついていて、マンションに入ったところを、管理人に見られていて逮捕された。警察は、何日も訊問を続け、体の弱っていた男は、すぐに音を上げ、言われるままに自供してしまった。父は、自白だけで、ほとんどの証拠もないので、裁判では無罪になると思っていたのであるが、有罪になってしまったのだ。そして男は、監獄の中で急性肺炎になり、あっけなく死んでしまったのだ。父のせいで、無実の男が、人殺しの汚名を着せられ死んでいったのだ。父は、二十年間悩み続けたが、子供たちの手が離れた今、償いとして、真実を公表すると言うのだ。二十年前の話を今さらされても、困るのは家族だ。そして、長男の軽はずみから、TV局のデレクターに、このことを知られてしまい、TV番組で父の告白を生中継する計画が企てられる。一体家族はどうするのか? 自分の都合にあわせた醜い物語が運んでいくのだ。私も六十数年生きてきましたので、胸に手を当てると・・・・って感じで、憂鬱になりますね??

【昭和】電話

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