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ふうーーーん、こういう作品を書いていたんだ、赤川次郎さん。誰も死なないし、名探偵や警部も出て来ない。もちろん、猫や吸血鬼、幽霊なんかも出てこない。ただのお子ちゃまの恋愛小説なのだ。「いい加減にしてよ!」突然、甲高い声が店の中に響き渡った。おしゃべりの波が、スッと一時にひいて、店の中は、静まり返ってしまった。夜、九時を少し回っていたが、コーヒーハウスはほとんど満席で、店の中は真昼のように明るい。「さっきから、いやだって言っているでしょ」その女の子は、少し声のトーンを落として続けた。女の子二人のテーブルで、一人は、赤いTシャツに、薄いカーディガンをはおっていて、もう一人は、水色の軽目のジャンパーをはおっていた。女の子が言葉を叩きつけた相手は、十七、八の---たぶん女の子たちと同じか、一つ二つ年上くらいの男の子で、テーブルのそばに立って、しきりに誘いをかけていた。「何だ、てめえ、でかいツラしあがって」「しつこいわね。向こうに行ってよ」・・・・・・・。男の子が、赤いTシャツの女の子の腕をつかむ。「何すんのよ!」「さわらないで!汚いわね!」 ----事態は最悪で、他の客たちは、息を呑んで、ハラハラしながら、そして多少は面白がりながら、眺めていたが、一人の大学生らしい男が、スッと立ち上がると、ごく当たり前の調子で、そのテーブルの方へ歩いて行ったのだ。「やめとけよ」と、その男が言った。「うるせいな、引っ込んでろよ」「そっちがうるさいんだ。出ろよ」「じゃ、てめえが出ろよ。出してやろうか?」と、男の子が、いきなり、殴りかかったので、店の中のあちこちで、アッという声が上がった。しかし、その大学生らしい男のほうが動きが素早かった。殴りかかって来た拳を軽くよけりと、今度は、男の握りしめた拳が、相手の顎に、きれいに命中していた。「畜生・・・てめえ」と、にらんだものの、結局は、男の子は、店を飛び出して行ってしまった。ジャンパーをはおっていた女の子が、「じゃ、後で」と、店を出て、公園に行った。殴られて店を出て行った男の子が、待っていたのだ。「殴られて三千円じゃ、合わねえよな」と、男の子。さっきの誘いは、猿芝居だったのだ。赤いTシャツの女の子と大学生らしい男をくっつけるために、綿密に計算された計画だったのだ。見事成功!そして、夏休みに、赤いTシャツの女の子たち三人と、大学生らしい男とその友達二人と、赤いTシャツの女の子の別荘に遊びに行き、さらなる計画を仕掛けるのである。うまく行きますかね?
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