湖畔のテラス(集英社)

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◆湖畔のテラス
大学を中退して、フラリとアメリカへ出かけ、一年近く放浪して帰ってきた娘の話だ。娘の叔母からアルバイトを頼まれた。叔母の夫、つまり叔父に恋人ができた。会社の新人OLらしいのだ。叔父が、湖へ、お得意先の招待で出かけるのであるが、叔母は、恋人と二人で行くとにらんで、その監視の依頼だ。姪の娘は、叔父に七、八年会っていないので、気づかないだろうということでの依頼だ。叔母は名家の出で、叔父は事実上は婿養子みたいなもので、二人でいると、女主人と召使というのがぴったりの取り合わせだった。そんな叔父が、若い娘に走るのも、気持ちは分かりますよね。叔母も、別に叔父を愛しているわけでもなく、叔母の目を盗んで、嘘をついて、女と出かけるのが、我慢できないらしいのだ。娘が、湖畔のホテルのロビーにいると、予想通り、叔父が、若い娘を連れて現れた。そして、娘がダイニングで昼食をしていると、二人がダイニングに来たのだが、満席で、ロビーで待つように言われている。娘は、席を立ち、「テーブル、空きましたよ」と、二人に声を掛けた。ちょっと緊張したが、叔父は、娘が姪とは気づかなかったのだ。翌日、娘が湖畔のテラスのテーブルで、朝食をしていると、二人がやってきて「昨日はどうもありがとうございました」と、礼を言うのだ。娘が「よろしかったら、ご一緒にどうぞ」と声をかけると、「どうも」と、あっさり二人がテーブルについたのだ。監視役の姪とも知らずに。そして三人は、一緒にハイキングに行ったりして、仲良くなるのだ。そして、娘がまた朝に、湖畔のテラスにいると、なんと叔母が現れたのだ。娘が「---どうしてここに?」と訊くと、「楽しみにね」と言うのだ。「楽しみ、って--何を楽しみに?」と訊くと、「あの人のあわてぶりを、よ」「さぞ愉快でしょうね。呆気にとらえたあの人の顔は」と来た。こわー! そこへ、のこのこと叔父がやってくるのだ。うわー!ですね。

◆真夜中の停電
新任課長のお祝いパーティーの話だ。新任課長のお祝いなのに、新任課長の家で行うというのもおかしな話だが、新任課長の家に七、八人の部下が、集まっている。思い出した、中国(China)だ。中国は、お祝いの費用を出すのは、お祝いされる本人が出す決まりらしい。私が中国にいた時、誕生日会を、毎年日本料理屋で行うのだが、自分で支払ってました。ほにゃららで行う二次会は、みんなに、ごちそうになってましたが。このパーティー、計画的なパーティーでなく、急に決めたらしい。新任課長は、奥さんに「部下を連れて行く」の電話一本で、みんなを引き連れて来たのだ。奥さんだって、大事な用事があったのに、困ったもんだ。しかも、若い女の子二人は帰ったが、夜中の一時なのに、まだ、盛り上がっているのだ。そして、突然、全部の明かりが消えた。大きな変電所の事故で、この辺り一帯の停電で、当分だめらしいのだ。へへーー、私の別荘は、太陽光発電を導入し、夜も大容量ポータブル電源でまかなっていて、停電大丈夫です。(自慢) 仕方なく、パーティーはお開きになり、みんな寝ることにしたのだ。新任課長夫婦は、二階の部屋、一人残っていた女の子は、一階の奥の部屋、他の野郎どもは、居間のソファーや床で寝ることにした。一人残っていた女の子、危ないよね。何てったて、真っ暗なのだから、今日は雨が降っていて、月明りもないのだ。何をされても、誰かわからないのだ。そして・・・・。「いいえ、主人が起き出したのには、全然気が付きませんでした」と、奥さん。「明け方、六時近くになって目が覚めたんです。隣のベットを見ると空になっているので、手洗いにでも行ったのかと思いました」「それから下へ降りて行ったわけですね」と刑事が手帳を構えながら言った。うむ、刑事? やっぱり何かあったのだ、真っ暗な家の中で。いったい、何があったのでしょうか?

◆砂に書いた名前
大学二年生の男が、同級生の彼女が滞在している、島の別荘を訪れる話だ。男が、島について早々、恋人に頬を平手でひっぱたかれた。「何しに来たのよ!」だ。男は、彼女から「父が嫌がるから、島には来ないように」と言われていたのだ。彼女の母親は、早くに亡くなり、父親と二人で、別荘に来ているのだ。でも、その嫌がる父親から、男に島への招待の手紙が来たのだ。その手紙を彼女に見せると、「分かったわ」と諦めた。この島は、別荘が十戸ぐらいしかない小さな島で、戻る船などないのだ。男は、彼女の別荘に案内された。白い、小ぎれいな建物だ。ドアが中から開いて、スラリと長身の紳士が出て来た。彼女の父親だ。「やあ、これはこれは」と、男の手を強く握った。歓迎されているのだ。海で泳いで、おいしい食事をし、ダンスして、寝る。何の問題もないのだ。ところが、翌日寝る間際に、父親が男に「今夜は、部屋のドアに鍵をかけておきたまえ」と言われたのだ。言われた通りに、ドアのカンヌキをかけて寝た。すると夜中に、重たく、引きずるような足音が、男の部屋に近づいて来た。そして、ドアを開けようとして、ガタガタ動かす音がした。しばらくすると、諦めたのか、重たく、引きずるような足音が遠ざかって行ったのだ。そのことを彼女に話すと、「父はあなたを殺すつもりだわ」と聞かされる。父親は、一種の夢遊病に近い状態になり、理性的な判断ができない状態になるという。今度は、父親に「足音を聞いたね」と言われる。父親は「その足音は、娘で、本気で好きになった男を、殺そうとするのだ」と言うのだ。娘は、一種の精神病だが、原因が分からず、無意識の奥深くに何かの理由があるというのだ。男は、彼女と父親の両方から、そっくりの話を聞かされたのだ。どっちの話が正しいか分からないが、どっちにしろ自分が殺されるのだ。そして、夜が来た。また、重たく、引きずるような足音が来て、遠ざかって行くのだ。男は勇気を出して、ドアを開け、遠ざかっていく人物を見た。オーーー!

◆静かな闘い
郊外の高層アパートに住む、営業課長の話だ。婦人物洋品のセールスからこの会社に引く抜かれ十年、三十五歳の異例の若さで課長になった。二十八歳の妻と、男の赤ちゃんがいる。初夏というにはまだ早い季節の土曜日、何となく蒸し暑い日で、窓を少し開けて、寝ていたところ、物凄い音で、課長が飛び起きた。まだ夜泣きの続く息子は、たちまち泣き出したのだ。妻が最後に目を覚ました。毎晩、息子を寝かしつけているので、疲れていたのだ。課長は、窓のから表を見ると、暴走族だ。何十台ものオートバイの群れが猛スピードで疾けて行く。暴走族ね、凄かったですよね。今でも別荘にいると、国道が近いので、時々爆音を聞きます。妻が、息子にミルクを飲ませ、何とか寝かしつけた。翌日の団地内の話題は、専ら暴走族の件に集中していた。課長は、顔見知りの巡査がいる派出所に行くと、今朝からここへ来たのは、三十人以上になるという。一応、パトカーが来たが、二、三人の警官じゃ、とても手が出せないとのことだ。次の週末まで、オートバイの群の姿は見せずに、忘れかけているた。ところが、金曜日の夜に会社から帰ると、百台どころでなく、先週の倍くらいが、来ていた。課長が、家に入ると、妻と息子がいない。押入れを開けると、妻が息子を抱いて、うずくまっていたのだ。それから二か月、爆音の洪水は、毎週、金曜、土曜日の夜、繰り返されて来た。妻は耐えられないところに来ていた。警察に足を運んでも「善処するように、検討します」の一点張りだ。そんなとき、この辺の土地を売って、大金持ちになった地主がいて、その息子が、暴走族のメンバーで、ここで走るのを、手引きしたらしいとの情報を得た。課長が、地主の家を訪れることにしたのであるが・・・・・。悲惨な結末になってしまったのだ。この課長、一生懸命頑張ったのですが、残念です。気分悪りー。まあ、最後のところは、少し救われてかな。

◆離婚案内申し上げます
いやーー、耳が痛い話です。五十に手が届こうかという係長が、出張から帰ってきて、東京駅に着いた。午後四時を少し回っていた。中途半端な時間だ。会社に行くか、家に直帰するかだ。そうだよね、気持ちわかります。私も若いころ、出張から帰って、駅に着いて、会社に恐る恐る電話を掛けていたっけ。結構時間が早かったのに、「帰っていい」と言われたときの喜びときたら。電話を切って、丁度来た電車に飛び乗ったら、電話の下に置いた鞄を忘れて、次の駅で引き返したけど、鞄が無くなっていました。今だったら、大変なことになるところでした。耳が痛いって、この話じゃないですよ。さあ、始めます。係長が、東京駅から会社に電話すると、様子がおかしい、そして部長が「なぜ一言私に相談してくれなかったのだ?」と来た。訊くと、係長と奥さんとの離婚通知が、届いたとのことだった。家に帰って妻に、「全くふざけたことをする奴がいる」と話すと、「あら、それは私が出したのよ」と来た。「今まで、ずっとこの日を待っていたのよ」と。十日前に、一人娘が嫁いだ。娘が嫁ぐまで、離婚するのを待っていたのだと言う。「じゃ、お前は何か不満があるのか?」と訊くと、「それが理由ね」と来た。「つまり、あなたは何も気が付いていないのよ。今までに自分がどれくらい妻を裏切って、泣かしてきたかを、ね」「裏切った?」と係長がポカンとしていると、「そのお話を始めると、長くなりますからね、夕食の後にしましょう」と来た。そして夕食後、妻は分厚いノートを開きながら、「どれから話そうかしら」と来た。そのノートに、係長が妻に対して色々やった仕打ちが、一つ一つ書いてあるという。そして「やはり、順番に行きましょうね」と、新婚初夜からの恨み辛みが言い渡されたのだ。一つ一つ言われたことは、間違ってなくその通りであり、係長は反論できないのだ。こわー!今私は、別荘にいて、明日家に帰るので、家にそんなノートがないか、探さなきゃならんですね。大変だ!

◆窓際連盟
「窓際連盟」ね。題名通りの話です。電気工業会社の設計畑の男が、課長に呼ばれた。この男、新製品の開発を手がけ、その新製品が、名古屋の方の工場で生産ラインに乗ろうとしている。生産ラインで設計屋のすることはあまりないのだが、それでも、完成品の品質管理や、新製品につきものの、初期故障の対策が必要なのだ。男は、課長から「君は主任だよ」「君の年齢では異例のことだよ」言われた。そしてさらに「君には、名古屋東工場へ転勤の辞令が出ている。いよいよ新製品の量産体制に入る。大いに活躍してほしいもんだな」と付け加えがあった。普通だったら喜ぶ話であるが、この男、父と二人暮らしで、父は病気が重いが、面倒をみてくれる人がいないので、男が面倒をみるしかなく、転勤できないのだ。そのことを課長に伝えると「それがどうした」「誰だって家庭の中にあれこれと問題を抱えているんだよ」「それをいちいち考えていたら会社というものは成り立たないんだ」「それでも、転勤に従わないというのかね」と来た。そして、課長に、お客様が来たので「君のことは良く検討する」と言い残し、出て行ったのだ。予想はしていたが、まずいことになった。この課長に嫌われると、ジワジワといじめて来るとの噂があるのだ。そして、男はまた課長に呼び出された。「君には悪いが、主任の地位は与えられない」そして「営繕室の補修係に転勤だ」と来た。バリバリの設計者が、蛍光灯を交換したり、床タイルの修理をしたりするのだ。このニュースは、瞬く間に社内に広まった。心配した人事課の恋人が、会社のビルの入り口で、男が出てくるのを待っていると、総務部の係長に、声を掛けられた。この係長は、窓際族の一人だ。係長に恋人が付いていくと、人事課長がいた。この人事課長も、現在以上の地位向上は望めない幹部非候補生の一人だ。そして、「飛ばされた設計者の男と一緒に、我々の仲間に入ってもらいたいと思ってね」「我々は、窓際連盟と呼んでいる」と来た。そうです、窓際連盟の逆襲が、始まるのだ。

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